最近気になること

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2004年08月16日

  • 鈴木 誠
わが国の年金基金による投資戦略において、数年前よりコーポレートガバナンスが大きく取り上げられるようになってきた。この結果、年金基金が大株主として様々な形で企業に働きかけを行なうようになった。これまでは、株式持合いによる銀行や生保の政策投資比率の高さから、純投資家の視点による経営へのチェックは欠落していた。企業の内部者である取締役によるチェック、あるいは取引先金融機関である銀行によるチェックが支配的であったといわれており、年金基金による企業の経営への主体的な行動は大変評価される。さらに、年金基金によるコーポレートガバナンスの先進国である米国では、たとえば、最大公務員年金基金であるカルパース(カリフォルニア州公務員年金基金)の企業向けステートメントは、単に当該企業の経営のあり方に影響を与えるだけでなく、当該企業への投資を行なっている、あるいは投資を考えている投資家へも間接的に影響を与えていると言われる。わが国でも今後、カルパースのように株主という立場から企業を牽制し得る領域にまで踏み込めるかどうか、注目される。

ところで、本コラムの「気になる」対象は上述のようなコーポレートガバナンス活動にあるのではない。最近、各種の報道でコーポレートガバナンス活動にいくぶん類似した投資や株主活動を行なう主体として、社会的責任投資または社会的責任投資ファンドといわれるものが取り上げられるケースが目立ってきたような気がする。気になるのはこの社会的責任投資についてである。かつて、コーポレートガバナンス活動は、広く社会問題を契機として株主の視点から企業への働きかけを行なってきた。たとえば、企業による海上汚染や大気汚染、また、人種差別などを行なった企業に対して、積極的な活動を行なってきた。ただし、一口にコーポレートガバナンス活動と称されてきたため、米国年金基金も積極的にこうした活動を昔からやっていたのか?といえば、否である。一部の大学基金や財団が中心となって行なわれてきたのである。

翻って、わが国では年金基金も社会的責任投資をという風潮が見られるようだが、私が気になる点とは、年金基金が社会的責任投資を積極的に行なう根拠が不鮮明であることである。なぜなら、年金基金は受給者から委託された原資に基づいて最大限の投資結果に結びつくような努力を払うことが第一義的に求められると考えるからである。むろん、年金基金以外の投資家が社会的責任投資を行なうことに異論を述べているわけではない。また、年金基金の受給者の総意であったり、十分な投資成果の蓄積があれば話は別だが、一般論として年金基金に求められる投資成果の最大化に努力を払うことを脇に置いて、社会貢献に資する投資に傾斜することがはたして許容されるのかどうか、このところ気になって仕方が無い。

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