長期金利はいつ本格上昇するか
2004年07月20日
だが、今後1~2年を視野とすれば、金利が大幅に上昇するとは考えにくい。資金の流れをみると、企業部門は依然として大幅な資金余剰であり、負債圧縮に引き続き励んでいる。地価下落に終息の兆しがみえてきたとはいえ、企業は資産デフレが続く限り、企業体にとって経済実質的といえる時価ベースの自己資本比率の低下を、借金返済によって食い止めようとするだろう。
しかし、企業の持つ土地の価格調整は、いずれ近い将来に終了すると見込まれる。また、企業部門では、予想する成長率が最近高まっているように、数年前とは違って設備投資のリスクをとり始めている気配がある。にもかかわらず長期の資金需給がそれほど引き締まらないことへのよくある説明は、企業が自己金融の範囲内で投資を行っているということだが、次のような説明も可能ではないか。
これまでの大規模な資産デフレは、エクイティを毀損することで時価ベースの負債比率を引き上げ、それは営業活動や取引条件に関する種々のコストを高めた。負債のコストである期待倒産コストは倒産確率が上昇すると高まるが、これまでの時価ベース自己資本比率の変動を倒産件数や倒産率との関係でみると、相関が非常に強い。ただし、そこには約3年のタイムラグがある。企業の現時点での負債返済や支出抑制をうまく説明するのは、3年前の倒産状況なのである。
これは、担保価値としての地価動向を含め、経営者が財務や信用面を取り巻く状況を認識した上で、進行中の投資プロジェクトや資金繰りなどを調整し、経済環境に合わせた財務構成の修正をマクロ的に(加重平均でみて)完了させるには、その程度の期間を要するということであろう。つまり、限界的なところで設備投資が盛り上がりはじめていたとしても、マクロでみる投資性向がただちに高まるわけではない。
1997年後半から2003年前半まで高水準だった企業倒産は、もはや相当沈静化している。政府財政問題が深刻であることには変化がない。今後1~2年の長期金利は上昇圧力を受けつつも本格上昇には至らず、しかし、その猶予は長くともあと2年以内と考えられるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年08月09日
企業に求められる人的資本と企業戦略の紐づけ、および情報開示
有価証券報告書における情報開示は実質義務化?
-
2022年08月08日
非農業部門雇用者数は前月差+52.8万人
2022年7月米雇用統計:雇用環境は堅調、労働需給はタイトなまま
-
2022年08月05日
2022年6月消費統計
感染状況の落ち着きから、緩やかな回復基調を維持
-
2022年08月05日
内外経済とマーケットの注目点(2022/8/5)
米国市場では8/10に発表される7月の消費者物価が注目される
-
2022年08月09日
投資家は非財務情報をどのように活用しているのか
よく読まれているコラム
-
2022年07月21日
2022年度の最低賃金引き上げはどうなるか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2021年12月01日
もし仮に日本で金利が上がり始めたら、国債の利払い費はどうなる?
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?