自治体IRのさらなるレベルアップに期待

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2004年06月25日

  • 経済調査部 市川 拓也
市場公募団体となっている自治体のIR(インベスター・リレーションズ)が、近年、ようやく一般的になってきた。財団法人地方債協会のホームページによると、説明会形式のIRは、平成14年度に9団体、平成15年度に12団体で開催されており、平成16年に入って既に2団体で行われている。一昨年度からは、総務省と全市場公募団体が合同で行うIR説明会も開催されている。加えて、各自治体のインターネットサイトへの財務状況等の掲載も充実してきており、自治体もIRを重視しているという点において投資家側の認知度はかなり高まっているといえよう。

自治体の投資家向け説明会は近年、急に広まった感があるが、平成10年11月に札幌市と北海道が合同で行ったのが最初である。平成10年後半といえば、景気の悪化が深刻化する中で縁故債の繰上償還などをきっかけに、地方債全体の信用が疑問視され、市場でのスプレッドが急激に開いた時期である。以来、札幌市は毎年IR説明会を続けていることから、最も長い歴史をもっているのは札幌市ということになる。

IRといえば、企業が株主に対して行うのが一般的であるのに対し、上でいうIRは自治体が債券購入者に対して行うものであるから、安全性を主眼におくという点で視点は同じではない。また、事業量の多さやサービス水準向上をPRするような一般住民向けのものとも全く異なる。筆者が説明会に参加するようになったのは平成13年からであるが、しばらくは“自治体が行う地方債購入者向けIR”の意味をよく理解しないまま、“お国自慢”を並べるなど、かなり“勘違い”のものが多かったと記憶している。

しかし、自治体側のIRへの理解が深まるにつれ、昨年あたりから説明会内容の充実度が大幅に増している。データ集で詳細な数字を開示しつつ、財務部分を中心に現状把握から対処方法、見通しまでをわかりやすく解説する形式が増えている。特に、不透明な点が多かった外郭団体に時間を割いて説明がなされることも多く、数年前とは様変わりである。ただし、今後も三位一体の改革による個別の影響や起債の事前協議制への移行など、投資家側に容易には伝わりにくい部分も多く残されている。環境変化のなかでも市場資金を円滑に調達していけるよう、投資家の理解を助けるための市場公募団体側のさらなる努力が期待される。

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