企業会計の2005年問題
2004年06月10日
国際・米国両基準は相互承認により、相互の域内で利用可能となろう。相違は大きくないし、残存する相違を統合・収斂するプロジェクトが進展している。米国では国際会計基準を認めるに当たっての特例措置についてSECが公開草案を公表し、一般のコメントを募っている。だが、わが国の会計基準がEU・米国で使用を認められるかは不明である。
中国・韓国を巻き込みアジア経済圏独自の基準を作るという案があるが、これは無理だ。両国ともIMFから多額の借り入れがあり、「会計基準の整備」がその条件となっている。両国は国際・米国両基準に近い基準を作ることを整備と解し、精力的に作業を進めている。
日本が独自の会計基準にこだわれば、日本は孤立する。海外で資金調達をする企業は国際・米国両基準を使えばよいが、経済の国際化がさらに進めば、問題発生は避けられない。国際・米国両基準を使用する国が100社にも達すると、外国人投資家のために、これらの会社のみを投資対象としたファンドが自然に生まれてこよう。そうしたファンドが注目を集めれば、国際・米国両基準を使用する会社はさらに増えよう。そうなると、国際的な投資家が投資するのは国際・米国両基準採用企業だけ、となりかねない。わが国会計基準は非公開企業専用の基準となってしまう恐れがある。
それを避けようと思うなら、わが国も独自の主張はしつつも、国際・米国両基準との距離感を常に測り、大きな差はできるだけ解消するように努めるしかない。日本の企業会計基準委員会は今夏に会計の基本概念の検討状況を発表する予定だが、これもそうした努力の一環だ。その一方で、国際・米国両基準はさらに動こうとしている。動きの方向と速度を見極め、わが国会計基準も投資家のニーズを反映した質の高い姿を目指さねばならない。
いずれにせよ05年はもう翌年に迫っている。EUは、9月ごろには日本を含めた他の会計基準についてEU域内での使用を認めるかどうかの本格的な検討に入り、年内には結論を出すものと思われる。域内使用が認められるならばそれでよい。もし域内使用が認められなかったら、そこで日本は重大な決断を迫られることになる。日本基準の内容を大幅に国際会計基準に近付け、EUの承認獲得を目指すか、あるいは独自の会計基準を守り、企業の日本基準離れに甘んずるか。国際連盟脱退の過ちは繰り返すべきではないと個人的には思うのだが。
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