大学発ベンチャー、1000社に迫る勢い

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2004年05月07日

  • 土屋 秀文
経済産業省の調査で、本年3月末までに大学発ベンチャーが799社創出されたことが判明した。6割が大学で生まれた研究成果を基に起業したベンチャーで、4割が共同研究を行うなど大学と関連の深いベンチャーである。大学別(累計)では、早大50社、東大46社、阪大45社、京大40社、東北大35社、慶大31社など研究型の有力大学が上位となっている。

2003年度には121社が創業された。うち89社は国立大学発である。また、64社がバイオ・医療分野、41社がIT分野の事業を行っている(事業内容が複数の場合は重複カウント)。研究者の7割が大学に所属するバイオ・医療分野での起業が促進されたことや、地方国立大学の山口大や香川大、愛媛大で各4社が起業されたことが特筆される。

国立大学は本年4月に法人化された。大学自身の判断で、教員が大学発ベンチャーと兼業することや大学の研究成果の利用が可能となった。その反面、研究費も大学の自助努力で獲得することが期待されることになった。大学の研究資金は、これまで以上に文部科学省の科学研究費補助金(科研費)に代表される競争的研究資金など、外部資金に頼ることになる。教授ら研究者は研究資金の確保のため東奔西走することになろう。

大学での研究成果を事業化して研究資金を稼ぐためにも大学発ベンチャーの創業は有効である。しかし、ただ闇雲に大学発ベンチャーを創業しても上手くいくはずがない。数を競うのではなく、質の面で充実させることが必要である。事業が成功して研究成果を還元できるベンチャーはごく一握りであろう。

有望な大学発ベンチャーの創出には、新規産業の創出を支援する経済産業省と大学等の有力研究機関を所管する文部科学省の官官連携の強化も重要である。両省の協力の下、国立大学の規制は緩和されてきたが、法人化後も大学発ベンチャーの株式保有や出資に制約があるため、研究成果の果実を直接的に大学に還元することが難しいなど検討すべき課題も残っている。

かつて「象牙の塔」と揶揄された国立大学で、産学連携が大学の経営目標となるなど、産学連携に対する意識も急速に変化している。研究者の評価に産学連携を含む成果主義を導入する大学も着実に広がろう。これまでに、株式上場した大学発バイオ・医療関連ベンチャー6社のすべてが国立大学から生まれている。法人化で自由度の高まった研究リソースの充実する国立大学を中心に起業はますます盛んになることが期待され、2004年度末の政府目標である「大学発ベンチャー1000社計画」の達成が射程圏に入ってきたといえよう。

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