米利上げはドル高の予兆となるか

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2004年04月20日

  • 尾野 功一
米国の雇用者数の大幅な増加、消費者物価上昇率の高進など、過去半月ほどの間に米国の利上げ観測が急激に盛り上っている。米国の双子の赤字への懸念を背景にドル安リスクに強く覆われた年初の時点で、ドル高に転じるきっかけとして指摘されたのが米国の金利上昇であり、ここにきて格好の口実が突如出現したことになる。当面はこの話題を中心にドル高ムードに包まれ、景気回復の点で円よりも分が悪いユーロは頭の重い展開が予想される。

もっとも、短期的にはともかく、持続的なドル高トレンドを導く条件として米国の金融引締めを位置付けるのは穴が多い。米国の双子の赤字は簡単には覆らないが、金利・金融政策見通しは遥かに移ろいやすく、両者を同じ土壌で比較するのは適切ではないからである。

更に、それ以前の問題として、過去の事実が物語るのは米金利上昇が効果的な長期ドル高要因とはならないことである。90年以降米国の断続的な金融緩和・引き締め局面で、ドルの推移は何ら特徴的な傾向が存在せず、米国との政策金利差と為替レートとの連動は、豪ドルや英ポンドなど一部の通貨は比較的期待に沿う動きをしているが、ドル円レートにはこの傾向がまるであてはまらない。米長期金利とドル変動、及び日米長期金利差とドル円レートの連動性でみても結論は同じである 。また、米国の株式市場の反応を考慮すると、インフレ圧力が顕在化して金利が上昇するケースと、インフレ懸念がない状況とで、どちらがドルにとって好ましいのか定かでない。このように、米金利上昇は持続的なドル高を何ら保証するものではないが、それでもドル高トレンドの予兆として期待がかけられるのは、むしろ有効なドル高材料の乏しさを暗示する。

これらのハードルを全て乗り越えて、ドル高進行を仮定した場合に待ち受けるのが、米国の経常赤字がさほど減らないうちに再拡大することである。この難関をもクリアして、長期ドル高トレンドが定着するには、経常赤字(ないしは双子の赤字)が完全に無視され続けることが必要となるが、経験に基づけばこれは現実的なシナリオとは考えにくい。双子の赤字に対する関心が戻れば、ドルに強い下落圧力が再燃しやすく、ドルに好意的に解釈しても、長期的なドルの膠着状態をもたらす程度であろう。

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