社会的責任投資の現状

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2004年02月13日

  • 壁谷 洋和
社会的責任を果たす企業を評価
最近、新聞などで「社会的責任投資(SRI)」Ⅰという言葉を目にする機会が多くなった。「社会的責任投資」とは文字通り、企業の社会的責任に着目して投資対象を選別する手法を指す。単に自己の利益のみを追求する企業ではなく、社会性をも考慮した企業の方が持続的な発展を見込めるとの考え方がその背景にある。具体的な評価のポイントは、環境・雇用・人権・企業統治など、営業上直面するさまざまな社会的課題に対する企業の取り組みである。実際の運用に際しては、社会的に批判の多い事業を営む企業を投資対象から排除したり、株主の立場から企業と積極的なかかわりを持って、経済的・社会的・環境的なパフォーマンスの向上を迫るのが大きな特徴である。日本でまだなじみの薄いSRIだが、先行する欧米ではすでに市民権を得た存在となりつつある。米国におけるSRIの市場規模は、2002年の段階で2兆1,750億㌦にも及ぶ。米SIFⅡの調べによれば、年金基金や投資信託、宗教団体、地域金融機関といった運用を専門とする組織が保有する資産のうちSRIでの運用が占める割合は、実に11.3%に達するという。また、欧州でSRIの普及を主導する英国でも、90年代の後半にSRIでの運用資産が急増。97年に227億 に過ぎなかった同資産は、01年には2,245億 へと、ほぼ10倍に成長した。

日本でも普及の兆し
一方、日本でのSRIは今のところ個人向けの投信設定が主流であり、ファンド数はわずか11本、純資産総額も1,000億円足らずというのが現状であるⅢ。しかしここにきて、日本でもSRI拡大の気運がにわかに高まりつつある。海外での発展に刺激を受けている面も少なからずあるが、それに加えて国内企業の度重なる不祥事により、“企業の社会的責任”を重視する動きが広がってきたためだ。環境省が03年6月に発表した「社会的責任投資に関する日米英3か国比較調査報告書 —我が国における社会的責任投資の発展に向けて— 」によれば、個人の多くが“企業の社会的責任”に関心を示すとともに、SRIの必要性を指摘している。また、大和インベスター・リレーションズが同年12月にまとめたアンケート調査によると、アナリスト・ファンドマネージャーのおよそ6割がSRIの将来的な普及を予想している。来るべき日本での発展に備え、今のうちからSRIという新たな投資の視点を養っておくのが賢明かもしれない。

Ⅰ)Socially Responsible In-vestment
Ⅱ)米国でSRIの調査・研究を行う非営利組織(Social In-vesting Forum)
Ⅲ)03年夏に大手信託銀行が機関投資家向けのファンド第1号を立ち上げた。

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