急ピッチで進む中国の銀行改革~健全化へのカウントダウンは残り3年~

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2004年02月06日

中国では、『金融改革』『国有企業改革』『農業改革』の行方が、今後20年の経済発展を左右すると認識されている。金融については、国家重点プロジェクトへの融資を通じて、経済の高成長を曲がりなりにも支えたと評価される一方、非効率な資金分配システムが温存され、四大国有商業銀行を中心とする銀行システムの脆弱さや健全性・収益性の低さが、喫緊の課題としてクローズアップされてきた。この問題解決の切り札の一つと期待されるのが、四大国有商業銀行の株式制導入である。

1月6日、中国人民銀行は、国務院(内閣)が国有商業銀行の中国銀行と中国建設銀行を対象に株式制導入による抜本的な経営体制改革の実施を決定したと発表。既に両行に対して、昨年末までに外貨準備から450億米ドル(約4兆8,000億円)を拠出し、資本注入したことを明らかにした。2002年末の自己資本比率は、中国銀行8.15%、建設銀行6.91%であったが、資本注入後は共に15%程度に上昇したもようである。さらに、中国人民銀行総裁は、中国工商銀行と中国農業銀行にも計700億米ドル以上の資本注入の予定と発言。現地では、今後、建設銀行の上場(04年)、中国銀行の株式制転換・上場(04年、05年)が計画され、工商銀行・農業銀行に関しても同様の改革が計画されていると報道されている。

四大国有商業銀行の不良債権比率(注1)は03年9月末で21.4%である。01年年初には、当局により、不良債権比率を毎年2%~3%ポイントずつ引き下げ、05年には15%以下に抑制する方針が示された。00年末の同比率は35.0%であり、当局の目標を上回るスピードで比率が低下している。これは貸出総額=分母の急増によるとの指摘も多いが、02年以降は不良債権残高も減少しており、不良債権処理がある程度進展しているのは確かである。当局のスタンスは、行政指導による国有企業向け貸し出しの焦げ付きなど、歴史的な負の遺産は政府が主体となって処理を進め、それ以降は各行の自助努力に委ねるというもの。各行にとって政府支援の一巡後が正念場である。拠点・人員のリストラ、貸出先のモニタリング強化などを強力に推進するとともに、いつまでも政府が尻ぬぐいをしてくれるとの意識を根底から変えなければならない。

WTO加盟に伴う銀行業の全面的な対外開放が始まるのは06年末であり(注2)、残り3年の間に国内銀行は外資系銀行との競争に耐え得る体制を整える必要がある。朱鎔基前首相は、WTO加盟は「チャレンジかつチャンスだ」と述べ、外圧を利用した構造改革を断行したわけだが、その総仕上げは後継の「胡錦涛 — 温家宝」政権に託された。中国経済のアキレス腱といわれ続けてきた国有銀行が生まれ変われるか否かは、3年後には分かるはずである。

(注1)国際基準に則した5分類で、返済の可能性を基準に分類。従来の延滞の有無を基準とした4分類より、不良債権を厳しく認識している。
(注2)06年12月11日までに外資系銀行による人民元業務の地理的制限が撤廃され、従来の中国企業に加え、個人へのサービス提供も可能になる。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登