日本の医療の質は低いのか

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2004年02月03日

  • 斎藤 哲史
日本の医療の質について、その評価は様々である。最近になって医療事故の報道が増加したことから、国民の医療の質に対する信頼が低下傾向にあるのは間違いない(医療事故が過去に少なかったのではなく、単に報道されなかったというのが実情であろう)。

医療事故が増加する一因としては、医療技術の進歩をあげなければならない。一昔前であれば、手の施しようがなく死に至っていた病気が、新薬の開発や術式の高度化等によって治療が可能になったことから、医療事故が発生する確率が高まったのである。医療の高度化によって救われる患者が存在する一方で、事故が起きる機会が増えたのは、何とも皮肉なことである。

日本の医療システムに対して、国内では「医療費が高い」、「質が低い」といった意見が散見される。ところが、WHO(世界保健機関)などの海外の専門家は日本の医療を「低いコストで高い健康水準を達成し、効率的なシステム」と評価しているのである。

医療の世界では、フリーアクセス、低コスト、高クオリティの3つを同時に達成する事は不可能であり、どうバランスをとるかが課題とされている。しかし、日本はこの3つのバランスをうまくとっていると世界からは評価されているのだ。

GDPに対するヘルスケア(介護・保健衛生等を含む)の費用は、G7では英国に次いで最低であるし、医療機関へのアクセスは原則自由である(先進国の病院で診察を受けるには、開業医の紹介状が必要)。クオリティについても、乳幼児死亡率の低さや世界一の健康寿命など、絶対的水準には改善の余地があるが、相対的には高いとされている。このように、我が国の医療システムは国民が考えるほどひどくはないのである。

経済的に豊かになり、社会が成熟してくると、サービスの質や安全に対する国民の要求水準が上昇し、医療に対する期待値も高まっていく。これに応じて医療機関が意識を変えていかなければ、彼我の意識にギャップが生じてしまう。こうした求めに医療機関は素直に耳を傾け、積極的に自らの診療について情報公開を進め、説明責任を果たしていくべきであろう。そうでなければ、国民は自国の医療制度に対して誤った評価を下し続け、医療に対する不信感はますます増大していくことになろう。これは患者、医療機関の双方にとって不幸なことである。

一方、国民も自国の医療制度が世界で高い評価を受けていることを再認識することが必要であろう。質の高い医療にカネがかかるのは当然である。基本的には、「安かろう、良かろう」の財・サービスは存在しないのであり、問題はそれを如何にして効率化するかなのである。不平不満ばかりを主張するのではなく、建設的な議論を進めることが不可欠ではなかろうか。

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