本格化する大学の知的財産戦略
2004年01月27日
全国の主要大学では、知的財産本部の整備が進められている。「知的財産立国」を目指す現在の日本にとって、特許に代表される知的財産の創出や活用を戦略的に推進することは国家的な課題である。大学は知的財産の重要な源泉であり、早急にその管理体制を整備することが求められている。
文部科学省の「大学知的財産本部整備事業」がそれを後押しする。国立大学が法人化する2004年度に先んじて、2003年度から知的財産に関わる業務を統括する体制を各大学が整備することを資金的に支援している。単独の大学や複数の大学グループなど、34件が採択されている。
各大学では、独自に作成した知財本部構想に基づいて、知的財産の創出や活用に関する全学的な体制を整備している。学内の関連組織を有機的に連携させることと同時に、技術移転機関(TLO)などの学外組織との連携も重要な検討項目に挙げられている。
急ピッチで整備を進めるなかで、特許関連費用の確保が大きな懸念事項となっている。各大学とも年間数千万~数億円程度が必要になるが、国立大学ではこの予算措置が済んでいないところが多い。画期的な発明であっても、公表する前に特許を出願しなければ権利化が難しくなる。法人化を目前に控えて、早急の対応が求められている。
人材の確保も重要だ。知財本部では、知財に関する専門的な知識と豊富な実務経験を備えた人材が求められている。学問分野で区分される「教員」と事務的な職務中心の「職員」しかいなかった大学の人事制度では、その取扱いが難しい。各大学とも卒業生を中心に人材の拡充を急いでいるが、計画と比べて遅れているところが多い。長期的に見ると、知財本部の重要なポストには高額な報酬で有能な人材を招くような積極的な人事戦略が望まれる。
国立大学では、学外にTLOを設置して技術移転活動を展開してきたところが多い。法人化された後も、学外TLOは知財本部のある大学とは別の法人として存続する予定になっている。将来的には、知財本部とTLOを統合し、知財の保有と活用を一組織で実践することが望ましい。
大学の知的財産を積極的に活用するという方針から、大学発ベンチャーがより多く輩出されることが見込まれる。東京大学のTLOである先端科学技術インキュベーションセンターが東大発ベンチャーのオンコセラピー・サイエンスへの出資で数十億円規模の含み資産を形成した。株式等のエクイティを活用することで、大学の知的財産から大きな収益を獲得する可能性が拡がっていく。
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