ドイツ連立政権の悩みのタネ

2012年11月7日

2013年9月に予定されているドイツ総選挙(連邦議会選挙)まで残り1年を切った。メルケル首相は国内での人気は高く、所属政党のCDU(キリスト教民主同盟)/CSU(キリスト教社会同盟)も世論調査で前回2009年9月の総選挙以降、一貫して第1党の地位を保っている。ただし、来年の総選挙で現在の中道右派の連立政権が安泰というわけではない。実は連立相手のFDP(自由民主党)の支持率が過去3年で大幅に低下している。FDPは2009年総選挙で得票率14.6%(前々回の2005年総選挙は9.8%)と大躍進したが、最近の世論調査では支持率が3~4%と低迷している。ドイツ連邦議会では得票率5%未満の政党には議席が配分されないため、FDPはこのままでは次の総選挙で議席をすべて失う可能性が高い。


FDPの支持率はなぜこれほど大きく低下したのだろうか。2009年総選挙は、CDUとSPD(社会民主党)の2大政党から成る連立政権が4年の任期を務めたあとの総選挙で、政権に対する批判票で小政党が躍進した。緑の党(8.1%→10.7%)、左派党(8.7%→11.9%)も得票率を伸ばしたが、その恩恵が最大だったのがFDPで、14.6%の得票率は実力以上の数字だったことがまず指摘できる。もう一つの理由として、FDPが主張する「リベラル」な政策がここ数年のドイツ経済、社会の実態とそぐわないためと考えられる。FDPは自由競争の促進、小さな政府の樹立を持論としている。しかし、2007年のサブプライム・ローン問題、2008年のリーマン・ショック、そして2009年以降のユーロ圏危機を経る中で、行き過ぎた自由化に対する批判が高まり、特に金融機関に対する規制強化が進んでいる。他方で景気の先行き不透明感が高い中、ドイツでも社会的弱者は立場が一層弱くなっており、なんらかの公的な支援が必要との声が強い。公的支援増額の主張がもっとも強いのは最左翼の左派党だが、実は連立政権の一角を占めるCSUにもその傾向がある。CSUは南西部のバイエルン州のみを拠点とする政党だが、同州はカトリック信者が多く、非常に保守的な土地柄である。つまりはCSUとFDPの政策は対立することが多く、それが連立政権が政策を打ち出す際の足かせとなっている。このこともFDPの支持率低下の一因と考えられる。


11月4日に連立与党のCDU/CSUとFDPの党首会談が開催された。来年の総選挙をにらんで、政権内で意見対立のある政策に関してすり合わせを行うことが目的であった。争点となっているのは、高齢者の貧困問題への対策、公的健康保険の将来像、家庭保育手当の是非など、いずれも社会保障分野の問題点である。与党内の意見の隔たりは小さくないが、総選挙で勝利するという目的のために、お互いに妥協する政策がとられやすい時期に入りつつあり、対策は総花的となる懸念が強い。既に公的健康保険基金の余剰金の扱いについては、FDPが主張した自己負担制度の廃止が、CDU/CSUからの反対意見をはねのけて採用された。他方でCSUが導入を主張し、FDPが財源問題から反対していた家庭保育手当(幼児を保育園等に入れず、家庭でみている親への手当)については、導入時期は2013年1月から8月に先送りされたが、導入が決まった。これらの政策は家計の負担軽減を目的としているが、前者は将来、健康保険の財源不安の原因になる可能性があり、後者は女性の就労に誤ったインセンティブを与える懸念があるとの批判が産業界や野党からさっそく上がっている。このような与党内の妥協がFDPの支持率回復につながるかは大いに疑問である。結果として、次の総選挙はCDU/CSUが第1党となるものの、FDPとの連立政権の継続とはならず、SPDとの大連立政権が誕生する可能性が高いとみている。

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