トランプ派がFRB理事の過半数を握ると、連銀総裁人事を通じ金融政策へ影響がおよぶ可能性

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2025年09月26日

トランプ大統領が米国の連邦準備理事会(FRB)への攻撃を続けている。パウエル議長に対し執拗に利下げを迫ったことは、市場関係者であれば何度も耳にしたはずだ。加えて、クック理事を住宅ローンに関する不正疑惑で解任する意向を示した。連邦地裁と控訴裁では、クック理事の解任手続きを差し止めているが、トランプ政権は9月18日、控訴裁の判断を不服として、最高裁に上訴したところである。

そもそも、FRBの理事の解任には、「正当な理由(Cause)」が必要と規定されている(米連邦準備法10条2項)。「正当な理由」について米連邦準備法に具体的な規定はないが、一般に「非効率(Inefficiency)」、「職務怠慢(Neglect of Duty)」、「不正行為(Malfeasance in Office)」が「正当な理由」に当たるとされている。

米連邦公開市場委員会(FOMC)における金融政策決定のための投票は、FRBの理事7人と、全部で12人いる地区連銀総裁のなかの5人で行われる。FRB理事と公開市場操作を行うニューヨーク連銀の総裁は常に投票権を保有しており、FOMCの議決に加わる残りの4人の地区連銀総裁は1年任期のローテーションで投票権が付与される仕組みになっている。世界の金融市場と実体経済に大きな影響をおよぼす米国の金融政策の決定において、FRB理事とNY連銀総裁は常任投票権を持つことから、彼らは特別な地位を与えられていることが明らかである。

FRBの理事は、大統領が指名し米上院が承認することによって就任する。現在の7人のFRB理事のうちトランプ大統領が第1次政権で指名したのがウォーラー理事とボウマン理事である。加えて、クグラー理事の退任を受けてトランプ大統領が指名したミラン理事が2025年9月16日に就任した。7人の理事のうち3人がいわゆるトランプ大統領が指名したトランプ派となったわけである。

クック理事が仮に解任されてトランプ大統領が新たに理事を指名すると総勢7人の理事会の過半数を占めることになる。また、パウエル議長は議長としての任期は2026年5月15日に終わり、理事の任期は2028年1月31日で満了になる。トランプ大統領の任期は2029年1月まであるため、パウエル議長の理事としての地位の後任はトランプ大統領が指名する人物となるだろう。トランプ派がFRB理事の過半を占めるのは時間の問題である。トランプ派の影響はここにとどまらない。実は、地区連銀総裁人事にもおよぶのである。地区連銀総裁は、各連銀の一般市民を代表している取締役(Director)が選定作業を進めるが、FRBの理事の承認が必要である。FRB理事にトランプ派が多数を占めることは、地区連銀総裁人事にも影響がおよび、ひいては金融政策の決定に大きな影響を与える可能性がある。

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山崎 政昌
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 山崎 政昌