M&Aにおける投資ファンドの成功要因

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2025年06月02日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 橋本 直彦

昨年ぐらいから、コンサルティング業務において投資ファンドとの接触機会が増えてきた。大手プライベート・エクイティ(PE)ファンドから中堅クラスのファンドまで、外資系・日系にかかわらず、具体的なM&A案件へと発展するケースも見受けられる。

筆者がM&A等の投資銀行業務に携わっていた20年以上前、外資系投資ファンドは「黒船ファンド」などと呼ばれ、やや特異な存在であった。当時、それは脅威というよりハゲタカ的なイメージが強く、国内において好意的な見方はされていなかったと思う。

しかし、時代は変わり、今や、上場企業のM&Aに投資ファンドが関与することは日常茶飯事となり、とりわけ大規模なM&Aにおいては、投資ファンドの存在が一般的となっている。

この状況は、日本のインベストメント・チェーンが従来と大きく変容し、体系的に整備されてきたことに起因するのだろう。すなわち、規制緩和や長期にわたる低金利といった投資環境を背景に、コーポレート・ガバナンス・コードが浸透し、上場企業の経営の合理性・効率性に目が向くようになってきた。そして、企業価値向上を前面に掲げる投資ファンドの力が、企業の具体的なコーポレート・アクションを後押しする構図が出来上がってきたと言える。

例えば、2025年2月、米系投資ファンド「ベインキャピタル」が田辺三菱製薬を買収、さらに3月には、トライアルホールディングスが、米系投資ファンド「コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)」が投資するスーパーマーケットチェーン西友の買収を公表した。また、M&A案件ではないが、アクティビスト的な性格を持つ米系投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」が、フジ・メディアホールディングスの経営改革をめぐり提案を活発化させているのは周知の通りだ。

今後も投資ファンドは、わが国の資本市場において、より大きな影響力を持ってくると思われるが、投資ファンド間の競合も激化しており、選別・淘汰も進んでいくことだろう。

先日、日本経済新聞の記事に、米国の大手投資ファンドであるカーライル・グループのCEOが取材に応じていた。さぞ、高邁な投資理論が語られると思いきや、「日本が投資対象として非常に魅力的であること」、そして、「日本で成功するためにはビジネス界において“人間関係”の構築が最重要であること」をコメントしていた。これは、日本に進出後25年の経験と実績を踏まえての発言であり、至言と感じざるを得なかった。

投資ファンドについては、時に複雑なスキームを駆使したり、大胆な資金調達手段を活用したりと、M&A手法の奇抜さに目を奪われがちだ。しかし、成功への秘訣は、案外、人的なつながりやソフトスキルに内在するのかもしれない。M&Aにおける投資ファンドの役割は、企業の買収や再編を通じて、シビアに高い収益の確保を目指すことであるが、現実には成功事例ばかりではなく、失敗に終わる投資も少なくないのだ。

そういえば、最近、仕事でお付き合いしている某投資ファンドの担当者は、非常に聡明でありながらも、親しみやすく、対人関係においても配慮が行き届いている。

まさに、「強い人々は、いつも気取らない(Strong people never put on airs.)」ということか。

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橋本 直彦
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