グロース市場上場会社の配当政策の変更が増える!?

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2025年05月12日

東京証券取引所(東証)の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(フォローアップ会議)で断続的に議論が行われてきたグロース市場改革案の全容が明らかになった。成長と新陳代謝を促進させるために、①上場後の高い成⻑を⾒据えたIPOの推進、②「高い成⻑を目指した経営」の働きかけ、③上場維持基準の⾒直し、が1つのパッケージになっている。

②は上場時から現在までの成長状況を株価や時価総額などに基づいて分析し、目標・施策の更新を要請するもので、③は現在の「上場10年経過後時価総額40億円以上」から「上場5年経過後時価総額100億円以上」に上場維持基準を引き上げるものである。②と③を踏まえれば、今後、上場会社は株価や時価総額を意識した行動が求められる。

グロース市場の上場会社には顕著な成長が期待される。これまでの成長戦略を見直す中で、通常であれば今後のアクションは成長投資が本筋だと思われる。しかし、それだけが解ではないかもしれない。財務状況、成長戦略、株価、時価総額などに違いがあることから、それぞれのコーポレート・アクションは異なるはずである。アクションを考える中で、1つの切り口になるのが既存の株主や潜在的な株主である投資家の存在であり、それらの人々の期待を知ることが肝要である。

グロース市場の2023年度末の投資部門別株式保有金額を見ると「個人・その他」が最も割合が高く53.7%である(東証など「2023年度株式分布状況調査結果の概要」(2024年9月30日))。特に、時価総額100億円前後の会社では流動性が低く、機関投資家が投資し難いこともあり、個人投資家がメインの株主であることが想定される。個人投資家の株式購入理由を調べた調査で最も割合が高いのは、51.8%の回答があった「配当がもらえるから」である(日本証券業協会「証券投資に関する全国調査 2024年度調査報告書(個人調査)」(2024年12月26日))。

こうした調査を踏まえると、会社によっては配当政策の変更を中心とした株主還元の拡充が俎上にのぼる会社も多いはずである。2025年5月5日までの過去1年間のグロース市場上場会社による適時開示のタイトルを調べると、「初配」「配当開始」が39社あった。企業価値向上に向けた適切な資本構成を考えた中での決断であると思われる。投資家は会社側の変化に投資チャンスを見出す。グロース市場改革がこうした会社側の変化をもたらすと期待される。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史