果たして日本は何を武器にディールに臨むのか

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2025年04月21日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

米国トランプ大統領の関税政策は世界各国・地域に激震をもたらしている。大統領が最終的に何を勝ち取れば満足するのかは定かでないが、各国・地域は米国との個別交渉に臨んでいくことになる。米国は巨大な個人消費マーケットを最大の武器として関税政策を打ち出してきたのに対し、そのマーケットに多かれ少なかれ依存してきた輸出国にとっては、対等な取引(ディール)を行うのはなかなか難しい面があるのが現実である。

日本は交渉の最前列にいるとされたものの、80年代の日米貿易摩擦の際には様々な譲歩を迫られた苦い経験がある。大統領の念頭には自動車や農産品などがあるのかもしれないが、不利な条件を飲まされることだけは避けて欲しいところだ。

ではディールに際して何か武器はあるのか。考えられるのは、対米投資の加速や、エネルギーを含む特定の製商品の輸入拡大、非関税障壁の幅広い撤廃の提示などだろう。残念ながら、すぐに貿易黒字削減に効果が上がるメニューを準備するのは容易ではない。十分に説得できなければ一定の関税率を受け入れざるを得ない。

ところで、トランプ政権が過ぎ去れば、また元の世界に戻るかと言えば、そうとも言い切れない。今後も同じような国際摩擦が多発するリスクは決して小さくない。ここは、目先の交渉に注力しつつも、改めて日本の強みを捉え、長期的な目線で国際的な競争力を高める取組みを進めていくべきだろう。それが日本の武器にもなってくるはずだ。

考えるべきことの一つとして、戦略的に「国を開く」ことを挙げたい。インバウンド客の受け入れが大幅に拡大しているが、それだけではなく移民の受け入れについて、より真剣に検討すべきだろう。労働力の確保という意味合いだけでなく、世界との人的なつながりを強めることが国際競争においても重要になってくるはずだ。優秀な海外留学生が日本での学びを希望し、定着するように、高等教育機関のレベルアップを図る努力も検討すべきではないか。

次に、「アジアにおけるリーダーシップの発揮」を一段と進めるべきだろう。地理的に近いアジア地域でまとまることは国際競争上、一定の意味を持つ。これまで様々な経済連携協議を進めてきたとはいえ、リーダーシップの観点では一層強める余地はあるだろう。

さらに、「固有の価値を高める」取組みも必要だろう。インバウンド客の急増は単に円安で安いから、という理由だけではなく、日本の文化的価値に魅力を感じている部分も大きいだろう。各地域で取組みが進んでいると思うが、海外でのアピールは、より国家レベルで行うべきだ。同時に、知財戦略を推し進めて、日本固有の強みを競争力の源泉に変えていくことも必要だ。

そしてもう一つ、日本の「交渉力の強化」も必要になる。調和を重んずる日本人は、相手と対峙したディールで物事をドライに決めていくという行動は、どちらかと言えば苦手な傾向があるかもしれない。日本の教育プログラムで、それを身に付けるのが難しいのであれば、例えば米国の教育プログラムを受けた人間(日本人でも外国人でもよいだろう)を積極的に登用するなども検討に値するのではないか。

いずれも、一朝一夕に進められるわけではないが、すでに取り組んでいるものもある。もはや米国が親友とは言えなくなりつつある現実に鑑み、取組みを加速してはどうだろうか。

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保志 泰
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