ガバナンス分野における標準活用の重要性
2025年04月16日
大和総研ではリサーチ・コンサルティング(コンサル)・システムの連携により、付加価値の高いソリューションの提供を目指している。三位一体で活動する中で、システムで利用される考え方が、企業価値最大化に資するコンサルを行う上で参考になることもある。その一つが標準化である。システム業界では、高度な知見を持つ専門家による、理論的な見識にベストプラクティスを組み合わせた技術の標準化(デファクトスタンダードやガイドラインなどを含む)が進んでいる。これにより、限られた知識で高度な技術や技法を利用できる。また、複数製品・サービス等の間での相互利用や連携、比較、評価が容易になる。つまり、社会における技術実装を図る上で、重要度の高いスキームと言える。
一方コンサル業界では、近年注目が集まるコーポレートガバナンス(CG)分野で、システムと同じく標準化が進んできている。CGとは、企業活動における管理・統制状況を指し、特に経営の管理体制の整備に着眼が置かれている。適切なガバナンス対応がなされることは、サステナブルに企業が存続・成長するための重要な条件の一つとなっている。
以前から財務状況を管理・評価する観点で、会計領域(※1)では標準化が広がっていた。それが今や、CGにおいて対応すべき基本的な事項(※2)から、開示すべき内容(※3)、企業買収時の対処法(※4)、問題発生時の対処法(※5)、人的資本の活用や開示(※6)、リスク対応(※7)、サイバーセキュリティ対応(※8)など幅広い領域まで標準化が進んできている。逆に、これらの企業を評価する投資家が受託者責任の観点から、どのようにふるまうべきかという標準(※9)も対となっている。
CG分野の難しさの一つは、企業ごとにビジョン、考え方、戦略、組織体系、ビジネスモデルなどが異なる中、「ガバナンスが効果的である」ことが直感的に正しく捉えにくい点にある。その点からは、現時点でガバナンスについて、幅広い社会的コンセンサスが得られているとは言い難い。加えて、効果的なガバナンスと「ビジネスがうまくいっている」ことは必ずしも一致しない点も、状況を難しくしている。それ故、体系だった考え方を基に、国内外の事例・ベストプラクティスなどを踏まえた標準化は意義が大きい。幅広い企業がガバナンスを整備しやすくなり、同時に多様なステークホルダーが各社の状況を把握しやすくなった。
従って、まずこれらの標準をしっかりと理解して対応することが、ガバナンス推進において最初に行うべき事項であろう。また翻れば、評価する側も単なる印象論で語るのではなく、標準を踏まえた上で議論を展開することが望ましい。各企業が独自の考えで一からガバナンスを整備すること可能ではあるが、それは困難なだけでなく、現時点で専門家以外が正しく評価することも難しい。企業・ステークホルダー間でのコミュニケーションを同じ視点、すなわち標準から展開することで、CG分野における社会的なコンセンサスの拡がりが期待できる。
ところで、ガバナンス標準には項目ごとに「Comply or Explain」(従うか説明せよ)とするものも多い。これまで述べてきた通り、現時点でExplainをうまく活用することは容易ではなく、多くの場合でComplyが選択されている。今後、標準を起点に、CG分野の人材強化や社会的コンセンサスが拡がることで、Explainも活用した、個社の特性に沿ったガバナンスの発展を期待したい。
- (※7)ISO31000:2018 リスクマネジメント—指針 など
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 中島 尚紀