反ESGで「成果」連発の米SEC

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2025年04月14日

トランプ政権は明確な反ESGだ。政府機関のうち、早くも反ESGで「成果」を連発しているのは証券取引委員会(SEC)だ。まずは、ダイバーシティや気候変動といったESG関連の情報開示が実質的に廃止された。

NASDAQは、上場企業の取締役会構成におけるダイバーシティの充実を義務付けるとともに、取締役会の多様性に関する情報開示規則を定め、2021年8月にSECの認可を得たが、保守系団体がこの規則の無効化を求めて提訴した。2024年12月に裁判所はダイバーシティ規則の認可はSECの権限外であると判決を下し、SECの認可を取り消した。一度はSECが認可したにもかかわらず、大統領選挙で政権交代が確実になった後のSECはその判決を受け入れ、ダイバーシティ規則は無効となった。

同じことは温室効果ガス(GHG)開示規則でも生じている。バイデン政権発足から3年を経てSECはGHG開示規則を制定したが、政権交代で共和党系委員が多数となった現SECは、SECにGHG開示規則制定権限はないという立場だ。つまり、バイデン政権時代のSECがいったん策定したGHG開示規則は権限外だったと、トランプ政権のSECが主張するようになっている。

株主提案やエンゲージメント(投資家と企業の対話)もSECは様変わりさせた。

バイデン政権時代のSECは、気候変動のような重要な政策に関連する株主提案議案があった場合、企業側はそれを拒絶できないとした。現SECは、これを反転させ、企業の日常的な経営判断に属する事項や、企業の活動に大きな関係がない事項については、株主提案を拒絶できるとの原則に回帰して、ESG関連株主提案を抑え込む通達改正を実施した。

エンゲージメントも大きく変わった。ESG関連のテーマを扱い、企業側にプレッシャーとなるようなエンゲージメントには、企業支配の意思があると考える余地があるため、機関投資家の株式保有状況や保有目的を13Dというフォームで開示させる解釈変更が行われた。従来よりも情報開示負担が重くなるため、この変更後直ちに、大手機関投資家がそろってエンゲージメントを一時中止するほどの波紋を生じさせた。

今後は、議決権行使助言業関連や、機関投資家側の議決権行使結果開示関連で反ESG政策が進められる。

議決権行使助言業者は、ESG関連の株主提案議案にも賛否を推奨して助言レポートに掲載しているが、この種の株主提案に対して賛成推奨する傾向、逆に言えば企業側に敵対する傾向が強かった。そこで、第一次トランプ政権のSECは、助言業者に対し上場企業側と十分にコミュケーションをとることと、上場企業から反論があった場合、その反論を助言レポート利用者に周知することを定めた。助言業者には手間の増える規則改正だった。バイデン政権はこれを撤廃したのだが、共和党は、撤廃された規則の復活を求めている。

投資信託業者に保有株式に関する議決権行使結果を開示させるN-PXといわれる規則が20年以上前に設けられている。バイデン政権時代のSECは、株主提案の議案を環境、人権、多様性などに分けて賛否を開示させるように2022年に規則を改正した。これによって、環境・人権・多様性関連議案にどの機関投資家がどの程度反対しているかが簡単にわかるようになった。ある種の政治運動に機関投資家を巻き込みやすくするこの2022年改正を、現SEC委員は問題視している。

バイデン政権時代のESG振興政策を覆している共和党トランプ政権は、4年後にトランプ大統領が退任したとしても、さらに覆されることがないように、迅速ではあるもの慎重に規則等の改廃を進めている。今後、反ESG政策は法制度的に強度を増していくと考えられる。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕