EUではトランプ関税の間接的影響にも警戒感高まる
2025年04月02日
米国でトランプ大統領が就任して以降、矢継ぎ早に打ち出されている米国の追加関税が世界経済における最大の関心事という状況が続いている。もちろん、それは欧州も例外ではない。米国の追加関税による悪影響としてまず想定されるのは、米国向け輸出の減少による生産の下押しだろう。さらにEUが報復を実施すれば、米国からの輸入にかかるコストが上昇し、それが域内の企業や家計の負担増となる。
ただし、EUではこうした米国の追加関税、および報復関税による直接的な悪影響のみならず、別の国に対する追加関税が、間接的にEU経済に悪影響を及ぼすことにも警戒感が高まっている。
特に懸念されているのは、追加関税によって世界各国の対米輸出が減少し、行き場を失った安価な製品がEU市場に流入することで、競合する域内産業が打撃を受けることだ。実際、欧州委員会は、2025年2月の米国による鉄鋼・アルミニウム関税強化を受けて、2025年4月から鉄鋼製品の輸入割当量を減らし、セーフガード(緊急輸入制限)を強化することを決めた。また、アルミニウム製品についても、新たなセーフガード導入への検討が開始されている。
EUの鉄鋼製品に対するセーフガードは、トランプ大統領が前回政権時に鉄鋼・アルミニウム関税を導入した2019年に発動されており、きっかけは米国による追加関税だった。ただし、輸入制限の主な目的は米国に対する報復ではなく、かねて過剰生産が問題視されていた中国からの輸入の増加を防ぐことであった。今回のセーフガード強化の公表に際しても、米国における貿易障壁の強化に加えて、やはり中国からの輸入増が理由として挙げられている。米国の追加関税は、結果的にEUの中国への対応を強化させた。
中国の過剰生産に関して、特に近年、米国やEUが強く批判してきたのは電気自動車、太陽光パネル、リチウムイオン電池である。この対応として、米国ではバイデン前政権下の2024年9月に、同製品の中国からの輸入に対する関税率が大幅に引き上げられ、EUも2024年10月に電気自動車に対する追加関税を発動した。しかし、トランプ政権によって中国に対する関税が一層強化されることで同製品の需給が緩み、さらなる価格低下やEU域内への流入増が起これば、EUも追加的な対応を検討せざるを得なくなる可能性がある。
また、安価な製品の流入による競争の激化という点では、中国からの輸入増が最大のリスクであることに疑いはないものの、米国の追加関税が全世界をターゲットにしていることに鑑みれば、他の地域と、他の製品でも起こり得る。EUでは、とりわけ2024年9月に競争力強化に関する提言書である “The future of European competitiveness” (通称「ドラギレポート」)が公表されて以降、競争力強化に向けた議論が活発化しているが、米国の追加関税によってその重要性が一層増している。
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- 執筆者紹介
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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
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