中国:6年ぶりの民営企業座談会に思うこと

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2025年03月17日

中国の習近平総書記は2025年2月17日、北京市で開催された民営企業座談会に出席し、重要演説を行った。座談会は政権ナンバー4の王滬寧・全国政治協商会議主席が司会を務め、ナンバー2の李強首相とナンバー6の丁薛祥副首相も参加した。座談会と称しているが、中国共産党政治局常務委員7名のうち4名が参加した極めて重要な会議だったといえる。

習近平氏は「党と国家は、(国有、非国有=民営、外資など)各種所有制経済に対して、法に基づく生産要素の平等な利用や、市場競争への公平な参加、法律による平等な保護を受ける権利を保障し、非公有制経済の健全な発展を促進していく」などとした。こうした発言は従前より繰り返されてきたものであり、新鮮味はない。特筆すべきは一堂に会した経営者の顔ぶれであろう。低コストかつ高性能のオープンソース生成AIを開発し世界を震撼させたDeepSeekの梁文鋒氏ら31人であり、電子商取引のアリババ集団(以下、アリババ)の馬雲(ジャック・マー)氏、通信機器大手ファーウェイの任正非氏、電気自動車(EV)BYDの王伝福氏、大手電子機器メーカー小米(シャオミ)の雷軍氏ら日本でもなじみのある面々が参加した。

座談会の模様を伝える映像では、習近平氏がアリババのジャック・マー氏と笑顔で握手を交わす場面が映された。

2020年秋以降、中国共産党・政府による新興企業への規制強化、締め付け強化が相次いだが、その最大のターゲットとなったのがアリババだ。国家市場監督管理総局は2021年4月、独占禁止法違反の罪でアリババに182億元(当時の為替レートで約3,000億円)の巨額罰金を科した。その後、当局はアリババに対して、3年の業務是正措置期間を課し、2024年8月に同期間が終了。9月にはストックコネクトと呼ばれる制度を活用して、香港上場のアリババ株式の売買を中国本土の投資家が行えるようになった。アリババに対して当局のお墨付きが与えられた格好だ。さらに、11月22日の国務院常務会議(李強首相が主催)は、「プラットフォーム経済の発展は、内需拡大、雇用安定、民生充実など実体経済の向上に寄与する」と評価し、政策支援を強化する方針を決定した。そして、2025年2月17日の習近平氏とジャック・マー氏の笑顔の握手である。

今回の民営企業座談会の参加メンバーは、パワーバッテリー、電子商取引、人型ロボット、ICTインフラ、新エネルギー車、半導体、AIなど新興産業や未来産業の担い手が多い。当然、米国との技術覇権争いにはこうした企業の発展が不可欠との思いはあろう。しかし、「民営企業」座談会と称している以上、その範囲は特定の分野に限定される必要はない。

実は同様の座談会は2018年11月にも開催されている。その際に、習近平氏は「民営経済は税収の5割以上、GDPの6割以上、イノベーションの7割以上、雇用の8割以上、企業数の9割以上を占める」などと発言し、民営企業の重要性を強調した。しかし、2020年秋以降の新興企業への規制・締め付け強化によって、発展の勢いは抑制されてしまった。同じことが繰り返されれば、中国経済の成長の原動力は再び削がれることになろう。民営企業を如何にして持続的に発展させるのか、中国はまさに正念場を迎えようとしている。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登