ESG/アンチESG関連の株主提案を巡る米国株主総会の現状と今後

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2025年02月17日

米国の株主総会では、これまでESGの推進を求める株主提案が多く提出されてきた。具体的には、気候変動に関する情報開示を促す、人権に関する第三者評価を求めるなどの提案である。しかし、2022年以降はアンチESG関連の内容、例えば気候変動に関する目標設定の取り下げ、LGBTQ+に対するサポートの廃止を求めるなどの株主提案が増えている。ISS Corporate Solutionの調査では、2023年7月~2024年6月に提出されたアンチESG株主提案は108件であり、前年同期の79件から大幅に増加した(※1)。なお、ESGの推進を求める株主提案は2割程度の賛同を得られている一方、アンチESG関連の株主提案の賛成率は1.5%であり、賛同が広がっている状況ではない(※2)。

ESGもしくはアンチESG関連の株主提案に関して注目されるのが、トランプ政権下における証券取引員会(SEC)のノーアクションレターの運用である。米国では、株主が、委任状説明書(Proxy Statement:会社が株主に送付する情報提供のための資料)に、会社提案に加えて、自らの提案の記載を求めることができる。しかし、例えば法令に違反する提案や個人的な利益を得るための提案、会社の通常の事業運営に関する提案など、一定の要件に該当する株主提案は、記載をしないことが認められている。会社は、株主提案がこれらの要件に該当する(記載不要)と判断した場合、SECスタッフに確認の手続きを行う。

第一次トランプ政権では、2017年にESG関連の株主提案に関して記載不要と判断しやすくする制度変更を行った(※3)。これを受け、ESG関連の株主提案が記載不要と認められる割合は9%から14%に上昇した(※4)。2021年、バイデン政権においてこの制度は撤回され、記載不要と認められる割合は5%に低下した(※5)。第二次トランプ政権になり、SECは2025年2月12日に新たな指針を公表した(※6)。これにより、第一次政権時と同じようにESG関連の株主提案が記載不要と判断される案件が増えることが見込まれる。ただし、アンチESGの株主提案も記載不要と判断される案件が増えることになるだろう。

ノーアクションレターの制度変更により、株主総会で議決される株主提案の件数は減るかもしれない。しかし、株主総会までいかずとも、株主提案を受けて企業が何らかの対応を行うこともあることから、株主提案件数が大幅に減るとも考えにくい。米国企業は、ESG推進派とアンチESG派の双方からの株主提案に向き合っていかなければならない状況である。真に企業価値に重要な取組みは何か改めて精査し、株主に向き合うことが求められよう。

(※1)ISS Corporate Solution(2024)“U.S. Shareholder Proposals: A Decade in Motion”より。なお、同期間中のESG関連の株主提案は504件であり、2期前の536件をピークに減少傾向にある。
(※2)前掲脚注1のレポートより。本文中に示した数値は各株主提案の賛成率の中央値である。

(※4)9%はオバマ政権時代の2015年7月~2016年6月の数値であり、14%はトランプ政権への交代時期を含む2016年7月~2017年6月の数値である(出所:前掲脚注1レポート)。
(※5)バイデン政権への交代時期を含む2021年7月~2022年6月の数値である(出所:前掲脚注1レポート)。なお最新の2023年7月~2024年6月の数値は8%となっている。
(※6)SEC ‟Shareholder Proposals: Staff Legal Bulletin No. 14M (CF)”(2025年2月12日)

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美