海運市況の軟化と世界景気の行方
2025年02月14日
昨年11月のトランプ氏の米大統領選勝利の前後から、マーケットでは株価をはじめ市況が上昇したものが多く見られ、「トランプラリー」として話題になった。2016年の同氏の初の大統領選勝利時に、その後数カ月間続いた株価上昇場面を思い出された方も多いだろう。今回も、米国株式市場は本稿執筆時点に至るまで概ね堅調な推移が続いている。
その反面、大統領選頃から市況が下落したものも存在する。それらの中で、筆者が注目しているのは、海運市況を示すバルチック海運指数の動きだ。同指数は足元までに大幅な下落となっており、水準面では昨年11月の大統領選直後の直近のピークから一時は半分以下まで落ち込んだ。
バルチック海運指数は、外航不定期船の運賃市況から算出されており、海運市況の中でもスポット価格を反映することで敏感に動きやすいとされる。実際に、タンカー運賃など他の海運市況には先行して動く傾向が見られる。同指数の水準が大きく低下したことで、過去の水準との比較からは、一旦の底打ちが近いかもしれない。しかし、同指数に遅れて動く傾向が見られる他の指標への影響は、これから本格化する可能性がある。
バルチック海運指数にやや遅行しやすい他の指標のひとつとして、商品市況を総合的に表すFTSE/コアコモディティーCRB®指数(CRB指数)が挙げられる。歴史的に見ても、バルチック海運指数とCRB指数の前年比の連動性は高く(図表参照)、市況が大きく動く場面ではバルチック海運指数がやや先行していた例が多い。そして、商品市況はモノの需給を通じて世界の経済状況の一面を反映することから、商品市況に先行するバルチック海運指数は世界経済の先行指標としても機能すると期待できる。
昨年11月以降にバルチック海運指数が下落したきっかけとしては、トランプ氏が11月下旬にメキシコ・カナダに対する関税賦課や中国に対する追加関税措置を表明したことにより、関税引き上げの応酬による国際貿易停滞への懸念が浮上したことが挙げられる。また、同氏の原油増産方針を受けたエネルギー価格の低下期待を反映した面もあろう。ただ、その後の環境の変化に対して、バルチック海運指数の軟化が長引いていることからは、海運関係者の間では世界の経済活動そのものへの懸念が高まりつつあるのかもしれない。昨年末に見られた欧州経済の失速懸念や、既成概念にとらわれないトランプ政権の政策運営など、世界的には経済や景気の動向に関する不透明感が大きい。そのような中では、海運市況の先行性にも注目すべきだろう。
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経済調査部
シニアエコノミスト 佐藤 光