日本のクレジット市場の発展は、プライベートで、それともパブリックで?

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2024年10月30日

  • 大橋 俊安

10月20日の日経新聞朝刊「私の履歴書」(ヘンリー・クラビス KKR共同創業者兼会長)には勇気づけられた。クラビス氏が日本でのクレジット(信用)市場の拡大・発展の可能性を指摘してくれたからだ。同記事では、アジア太平洋のクレジット市場は魅力的だとし、「日本もそうだ。企業は国内銀行からの融資に依存している。日本経済が真に柔軟になるには、銀行に代わる資金調達の手段が必要だ。」と述べている。

ただし、クラビス氏と筆者では、発展してほしい日本のクレジット市場の領域が異なっている。クラビス氏は、日本のプライベート・クレジット(※1)市場の拡大可能性を指摘しているが、筆者はむしろ、パブリックなクレジット市場、つまり既存の公募社債市場の拡大に期待している。

クラビス氏は、日本企業は価値向上のためには、非中核事業の売却、つまりカーブアウトが必要と指摘する。そして、同事業の買い手のファンドなどは、資金調達の必要性からクレジット市場の活用、つまりプライベート・クレジット市場の出番がくると予見する。日本企業の価値向上にカーブアウトが求められていることには筆者も同感だ。しかし、プライベート・クレジットは、それこそ市場を通してではなく、銀行により相対で取り扱われるべきものであると筆者は考える。何故なら、カーブアウトされる非中核事業の信用リスク情報は、情報生産機能を持つ信用の目利きのプロ、つまり銀行でなければ生産が難しいからだ。

一方、上場企業は、財務・非財務情報をしっかり公開しているため、銀行が情報生産機能を発揮する必要性は乏しい。よって、筆者は上場企業本体こそクレジット市場、つまり公募社債市場を活用すべきで、そうでない非中核事業の買い手であるファンドなどへの融資こそ銀行が担うべきと考える。クレジット商品(社債)よりリスクの高い株式を、個人投資家も含めた様々な投資家が、公表される財務・非財務情報を基に売買できているのだから、上場企業のデット・ファイナンスを銀行に頼る必要などもうないはずだ。つまり、上場企業のデット・ファイナンスを銀行融資(=間接金融)優位の状況から解き放ち、市場を通したファイナンス(つまり、公募社債市場)に転換すると同時に、銀行には、情報生産機能を持つ強みを生かしたファイナンス、つまり、ファンドなどへの融資に注力してもらうことの方が理にかなっていると筆者は思う。日本のクレジット市場の発展は、プライベートの領域ではなく、パブリック(既存の公募社債市場)の領域でこそ起きてほしいと強く思う。

(※1)プライベート・デットとも言う。

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