ベトナム株式市場における投資家教育の重要性

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2024年10月16日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 柄澤 悠

近年、ベトナムの株式市場は経済成長とともに投資家層が拡大している。2024年9月の証券口座新規開設は15.8万件で、その大半は個人投資家によるものであり、同月末時点の証券口座数は886万件に達した。ベトナム政府は、証券口座数を2025年に900万件、2030年には1,100万件まで増やすことを目標としている(※1)。

投資家増加の背景の一つとして、YouTubeやFacebookのオンラインコミュニティ等を通じた投資関連情報の取得や共有の容易さ、それによる急速な関心の高まりがある一方、ネガティブな側面も見受けられる。例えば信頼性の低い情報が多く、投資家が誤った判断をするリスクが高まっている。加え、無資格の自称投資専門家による勧誘や投資詐欺も多発しており、初心者の不安を助長している。

こういった状況を踏まえると、投資家教育はベトナムの株式市場の健全な発展に不可欠である、と考える。投資家が正しい知識を得てリスクを理解することは、市場の透明性向上や市場参加者の安定的な増加などに繋がる。

大和総研ではベトナム証券市場の発展を様々な角度から支援するプロジェクトを近年主導しており、直近では投資家教育が重要なテーマとなっている。支援先の一つである国家証券委員会(SSC)では、投資家保護を重要なミッションの一つと位置づけ、個人向け教育を通じて投資家の意識向上を目指している。SSCが構築する投資家教育のためのウェブサイト(※2)には、株式や証券市場に関する基礎知識、投資商品の紹介、詐欺や不正行為に関する情報、法令のアップデートなどを掲載し、投資家が効率的に知識を習得できる工夫がなされている。また、証券会社は株式市場の基礎や投資戦略について、定期的なセミナーの開催、初心者向け投資ガイドの作成、オンラインでの教育コンテンツ提供などを行い、投資家の知識向上に寄与している。

日本では官民一体での金融経済教育推進に向け、2024年8月に金融経済教育推進機構(J-FLEC)が本格始動している。このような機関は様々な国に設置されており、ベトナムでも今後これらを参考にした取り組みを検討することも大いに価値があるだろう。

我々の支援を通じた投資家教育の充実がベトナム市場発展に繋がり、それがベトナム経済のさらなる成長を支える鍵となれば、望外の喜びである。

(※1)2030年までのベトナム証券市場発展戦略(Decision No. 1726/QD-TTg、2023年12月20日)
(※2)The Securities Research and Training Center(https://www.srtc.org.vn/en)

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