トランプ前大統領が24時間で本当に戦争を終わらせたら株式市場はどうなるの?

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2024年09月13日

2023年5月にCNNタウンホールミーティングで、トランプ前大統領が発した"I'll have that done in 24 hours.(24時間以内にウクライナ戦争を終結させる)"という衝撃的な発言は、西側諸国のみならず、ロシア、ウクライナ両国でも大きな反響を呼んだ。2024年11月の米大統領選が近づくにつれこの発言が再注目され、筆者が訪問する多くの金融機関から、戦争終結への期待を反映して"本当に24時間以内に終わるのか?実現した場合のマーケットへの影響は?"という質問をよく受ける。この一見非現実的な発言が仮に実現した場合、株式市場にどのようなインパクトをもたらすのであろうか?

仮に戦争終結が現実となれば、世界中の投資家心理に即座にポジティブな影響を与えそうである。中でも、地政学的リスクに敏感なセクターや戦争の悪影響を受けていた消費財、航空、旅行関連セクターなどの企業の株価の感応度は高そうだ。戦争終結は消費意欲を高め、国際移動を活発化させるため、これらの産業は、抑制されていた需要の解放により、大きな成長機会を迎えると考えられる。一方、兵器需要の急減が予想され防衛関連株が調整するなど、トランプ前大統領の政策で恩恵を受ける銘柄に投資する“トランプ・トレード”戦略は一部見直しを迫られる可能性がある。

ただし、投資家の反応は必ずしも一様でない。和平プロセスの不確実性が高いにもかかわらず、ウクライナ戦争が24時間で完全終結するという非現実的な見方が広く流布し、株式市場が過度に楽観的になることへの警戒感も存在する。実際のところ、複雑な国際紛争、特に領土問題や歴史的対立を含む戦争を、わずか1日で解決することはほぼ不可能である。トランプ前大統領がゼレンスキー、プーチン両大統領との直接会談を仲介するという案も現実味に乏しい。両国の立場は現在、あまりにも隔たっており、単なる会談だけで妥協点を見出すことは困難であろう。トランプ政権下でウクライナ支援停止となれば戦争終結に繋がるとの見方もあるが、イスラエル・ハマス紛争のように戦力差が大きくても戦闘が長期化する例はあり、実際には戦争が継続し泥沼化する可能性が高い。この複雑で流動的な地政学情勢が投資家心理に及ぼす影響は看過できない。

カマラ・ハリス副大統領が優勢だった支持率は、足元でトランプ前大統領が徐々に回復する展開となっている。真意は不明だが、2024年9月のロシアの東方経済フォーラムでプーチン大統領がハリス氏支持に言及する場面があった。これに対して、米国のカービー国家安全保障会議戦略広報調整官は、これを選挙介入として厳しく批判した。

この政治的駆け引きは、ウクライナ戦争の行方を一層不透明にしている。誰も確実な予測はできないが、トランプ前大統領が当選したときに、投資家の早期終結への期待が裏切られた場合、株式市場は一定程度の調整を余儀なくされる可能性が高いと考えられる。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫