今こそ、農業に目を向けよう
2024年07月17日
『食料・農業・農村基本法』改正法が、2024年5月29日に成立、同年6月5日に公布・施行された(※1)。同法は農業の“憲法”と言われており、1999年以来25年ぶりの改正である。
これまでの”憲法“の基本的理念は、「農村の振興」により「農業の持続的な発展」を図り、「食料の安定供給」を通して「食料自給率向上」を実現するというものである。今回の改正法は、あらたに国際環境の変化を踏まえた「食料安全保障の確保」、及び持続的な食料供給を行うための「環境と調和のとれた食料システムの確立」を前面に押し出した。
農業には解決すべき課題が山積している。農業従事者の高齢化は止まらず、農業人口は減少し続け、耕作放棄地の拡大には歯止めがかからず、食料自給率は低水準(2022年度:カロリーベース38%、生産額ベース58%)のままであり、農業の生産性向上については永遠の課題である。
近年、我々は新たな感染症の拡大、国家間の紛争激化、気候変動による大災害の発生等々、極めて厳しい現実を目の当たりにしている。今までさほど危機感を抱くことなく受け入れてきた諸々の事柄が、確実性、連続性、継続性、代替性においていかに脆弱であるか思い知らされている。
農業においてもこれらの影響を受け、感染症や紛争によるサプライチェーンの崩壊、異常気象による農作物への悪影響等々、ますます多岐にわたりプレッシャーがかかっている。今回の“憲法”改正で、「食料安全保障」がクローズアップされ、持続的な農業実現のための「環境対応」が強調されることとなったのも当然である。
農業界でも、企業(※2)も含めた世界中の志ある挑戦者たちが様々な課題に対して果敢にチャレンジを続けているものの、その解決はそう簡単には進まない。しかし、農業は人間の生命にかかわる“食”を担う営み、すなわち、エッセンシャルな活動である。 “食”に関する問題は、先送りや見て見ぬふりは許されず、人類の英知を結集して取り組まなくてはならないものである。
今、我々は、日常生活の中で“食”のコスト上昇を体感し、“食”の重要性を痛感している。だからこそ課題解決を農業関係者だけに任せるのではなく、個々人が、自分事として農業の現状について理解を深め、どうあるべきか、そして何ができるかを考え、可能な範囲で行動することが必要ではなかろうか。我々が意識を高めることが、直接フロントで闘う挑戦者達のエネルギーにもなるはずである。
専門家には、『食料・農業・農村基本法』の理念に則した形で2024年度中に策定される『基本計画』の中で、課題解決へ向けたより具体的な戦略と戦術の提示を期待したい。
(※2)大和証券グループでは、大和フード&アグリ株式会社が農業関連事業に取り組んでいる。
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 越智 研至
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