「平均年金額」が示す公的年金の明るい未来
2024年07月12日
2024年7月3日に、厚生労働省は公的年金の財政見通しである「財政検証」の結果を公表した(※1)。5年前の前回の財政検証と大きく異なるのは結果の「見せ方」だ。
従来、公的年金の支給額の見通しは「モデル年金」で示されてきた。「モデル年金」とは、夫が40年間厚生年金に加入して平均的な収入を得て、妻は40年間専業主婦である世帯を「標準的」な世帯とした上で、その世帯に支給される年金額を算出したものである。
今回の財政検証では、過去30年と同様の低成長を見込む「過去30年投影ケース」を仮定すると、モデル年金の金額は2024年度の月22.6万円から、2059年度には同21.3万円に減る見込みだ(本コラム中、将来の年金額は、全て2024年度の物価に換算した金額を示す)。「モデル年金」で見れば、過去30年と同様の低成長が続けば将来の年金額は減る、ということになる。
これに対して、厚生労働省が今回の財政検証から新たに示したのが「平均年金額」の見通しだ。「平均年金額」とは、厚生年金の加入の有無や配偶者の有無などを問わず、同じ年度に生まれた者に支給される年金額を男女別に総平均したものである。男女それぞれの金額は単身の男女の、男女の合計額は夫婦の大まかな年金額を示す。
男女合計の「平均年金額」は、「過去30年投影ケース」の下でも、2024年度の月24.2万円から、2059年度には同25.4万円に増加する見通しだ。男性の平均年金額が同0.2万円減少するものの、女性は同1.4万円増加して男性の減少分を上回るためだ。
同じ経済前提の下で、モデル年金額は減るのに平均年金額が増えるのは、モデル年金が世代に関わらず厚生年金の加入期間を固定しているのに対し、平均年金額では後に生まれた世代ほど、特に女性がより長く働くようになり、厚生年金の加入期間が延びることが反映されているためだ。
35年後の2059年度、すなわち現在30歳の女性が65歳になる頃、女性の71%は20年以上厚生年金に加入しており、20年以上を第3号被保険者(被扶養配偶者)として過ごす女性は14%にとどまる見込みだ(※2)。労働参加が進展していく未来を見据えれば、もはや、モデル年金は将来の公的年金支給額を示すものとして、実態に合わないだろう。
「平均年金額」の試算を見れば、今後目指すべき公的年金の改革の方向性も明らかだ。厚生年金の適用拡大が進められれば、厚生年金に加入する者の年金額の増加が「平均年金額」にダイレクトに反映される。もし、週10時間以上働く被用者が全員厚生年金に加入する「勤労者皆保険」が実現すれば、2059年度の平均年金額は現行制度の男女合計月25.4万円から月28.2万円まで増加する。しかも、低年金者の減少効果が大きく、個人単位で年金額が7万円以下となる者は現行制度の13.3%から改正後は2.6%まで大幅に低下する(※2)。
これから日本がやるべきことは、引き続き、女性と高齢者の労働参加を進め、厚生年金の適用対象者の拡大に努めていくことだ。それができれば、公的年金の未来は明るい。
(※2)いずれも、経済前提は「過去30年投影ケース」である。
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金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟