正確性とわかりやすさ

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2024年05月24日

四半世紀ほど前になるが、ドイツのフランクフルトに駐在していた。ごく小さな事務所で、欧州の経済・金融・制度改革・政治など幅広い分野についてトピックスを探してレポートを書いたり、社内外からの問い合わせに対応したりすることが主業務だった。まだインターネットがあまり普及しておらず、情報収集手段はテレビニュースのほかは、新聞、雑誌、あるいは中央銀行などの刊行物と、紙ベースのものが中心だったと記憶している。

例えば、ドイツの証券取引に関する税制度はどうなっているかとの問い合わせを受けた場合には、経済事典をひいて調べたが、これが相当に厄介だった。略語や法律関係の独特の言い回しがあり、ニュース報道が分かる程度のドイツ語力ではなかなか歯が立たない。加えて、これについては別の項目も見よとの指示が頻繁に出てきて、10冊ほどあった経済事典のあちこちをひっくり返すはめになった。よく理解できずに、最後は隣の大和証券オフィスの法務担当者にお願いして解説してもらったこともある。

当時、読解に苦労した主因はドイツ語という外国語にあると思っていたが、現在の部署に来て、日本の金融商品取引法や税法に接する機会を得て気づいたのは、日本語で読んでも法律の条文はかなり分かりにくいということである。正確性・厳密性を重視しているためだろうとは想像するものの、用語が難しかったり、表現が回りくどかったりすることが少なくない。

社会が円滑に機能するためにはルールが必要だが、そのルールを皆が知っていて、そしてその意義について納得していることが同時に必要だと考えられる。分かりやすい例では、交通ルールがなければ道路は大混乱となり、大きな事故が起こりかねない。車も歩行者も交通ルールを知っていて、事故を防ぐためにルールを守っているからこそ、スムーズに通行することができている。

ただし、さまざまあるルールを皆がすべて熟知しているわけではない。何らかのルールについて知る必要が生じた時に、いろいろ検索をして(今はありがたいことにインターネットで簡単に条文などを検索できる)ルールを理解しようとするのが普通だろう。ところが、そうやって条文にあたった時に、それが分かりやすくない場合、どうすればよいだろうか。理解して、納得しなければルールを守ることは難しい。そうなると、今度はそのルールについてかみ砕いて説明したり、その背景を解説したりしている資料を探すことになるだろう。金融商品取引法、税法、会社法など限定された分野ではあるが、この説明や解説を行う橋渡し役を我々も担っていると考えている。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子