株高でもらえる年金はどれくらい増えるのか?

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2024年03月22日

日経平均株価は2月に34年ぶりに最高値を更新し、3月に入ると一時4万円の大台を突破した。この状況について「実感なき株高」との報道もしばしば見られる。背景には、物価高のため実質賃金が上昇していないことや、「貯蓄から投資へ」が道半ばで家計金融資産の半分以上が依然として預貯金に偏っていることなどがあろう。株高の恩恵は富裕層のみが受けているという声も聞かれる。

だが、株高による好影響は富裕層以外にも及んでいる。代表的な例が国民の老後の所得を支える公的年金だ。公的年金は積立金を金融市場で運用している。株高で運用収入が上振れすれば積立金が増加し、制度の持続可能性が高まるとともに給付水準も上昇し得る。

政府は公的年金の健康診断ともいうべき「財政検証」を5年ごとに行っており、そこでは積立金の先行きも示されている。2019年に行われた直近の「財政検証」(厚生労働省)では、2022年度末の積立金は218兆円と示されたが(※1)、実績では既に40兆円程度上振れしている。足元の株高によって上振れ幅は更に拡大しており、現在は80兆円程度になっている可能性がある。

この積立金の上振れは将来の年金給付を引き上げる。下図は、2019年の「財政検証」で示された政府試算と、足元の株高を含む運用実績を加味した大和総研の試算を比較したものだ。最終的なモデル年金の所得代替率(最終所得代替率)は(※2)、運用実績を加味したケースのほうが4%pt近く高い結果となった。給付水準に換算すると、7%程度の上昇に相当する。

もっとも、今夏に予定されている次回の「財政検証」の政府試算では、積立金の変動を均した値が用いられる可能性が高い。「財政検証」では長期的な観点から年金財政の状況を評価するので、足元の短期的な金融市場の変動から影響を受けすぎないようにするためだ。次回の「財政検証」で示される試算では、所得代替率は当社の試算ほどは高まらないかもしれない。

それでも、株高が積立金の増加を通じて公的年金制度の頑健性を高め、国民の老後の所得補償に寄与することには変わりはない。株高の恩恵は富裕層のみが受けるというわけではないだろう。

(※1)政府の財政検証では様々な試算結果が示されているが、ここでは短時間労働者への社会保険適用において企業規模要件を撤廃した前提で試算された「経済前提ケースⅢ、オプションA—②」で示された値を用いている。図表の政府試算も同様。
(※2)「モデル年金」とは、夫が平均賃金で40年間働いた会社員、妻が40年間第3号被保険者(専業主婦)である世帯が受給する新規裁定時(受給開始時)の年金額。「所得代替率」とは、年金の受給額と現役世代の平均手取り収入額との比率。

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執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 末吉 孝行