リサーチ業務の効率性を向上させる技術たち

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2024年02月05日

  • 山崎 加津子

会社の仲間と飲み会が復活してきたが、年齢のせいもあってか話題がついつい昔話になる。といっても、たかだか30年ほどの前のことだが、話していると相当に大きな変化を経験してきたことが実感されてくる。

たとえば、入社当時はまだWindows 95は登場しておらず、インターネットも普及していなかった。かろうじて1人1台のパソコンはあったが、手書きの原稿を事務職の女性がワープロで清書することもそう珍しくはなかった。会社で個人のメールアドレスが導入されたのはしばらくあとのことで、連絡手段は電話かファクスだった。

リサーチ業務に不可欠な経済データなどの取得でも、インターネットや情報ベンダーからワンクリックで膨大なデータを入手できる今日とは大きく異なっていた。自身の経験ではないが、日銀短観を公表当日に日銀にもらいに行き、その内容を電話で会社に速報する同僚がいた。また、外国の経済データなどでは、公表からかなり遅れて郵送で届いたデータ集を見ながら手入力でデータベースを作成していた。情報ベンダーと契約してデータを取得してはいたが、特に海外のデータは入手できるものがかなり限られていた。ドイツの中央銀行であるブンデスバンクの資金勘定や貿易統計の詳細な内訳などは紙ベースでしか入手できなかったと記憶している。

その後、各国の統計局や中央銀行、あるいは情報ベンダーから、Excel等に即時にダウンロードできるデータは各段に増えた。また、内外のニュース記事や調査レポートといった情報の入手可能性も飛躍的に拡大した。リサーチ業務の効率性は大幅に向上し、30年前と比べると隔世の感がある。

一方、今後に目を転じると、大きな変化をもたらす可能性があるのは、まずはAI技術の普及だろう。ChatGPTなどの生成AIを活用して外国語の文献を翻訳したり、論文のポイントを迅速に把握したりすることができれば、大いに時間の節約になる。ただし、万能というわけではなく、まことしやかな「嘘」をつく可能性もあるため、その翻訳や要約が的確なものであるかどうかを確認する作業は欠かせない。

ChatGPTは毒にも薬にもなる存在といえるが、付き合い方に注意が必要という点ではインターネットを活用して情報を収集する時と当面はそう変わらないかもしれない。インターネットには玉石混交の情報があふれており、その中で信頼できる情報はどれかの見極めが必要である。そもそも、リサーチの核である、どのようにロジックを組み立てるか、その裏付けとなる情報やデータをどう収集するかという部分は人間が担うしかない。その際、必要となるデータの特徴を知っている、適切な情報の発信者を知っているといったことがリサーチの質を左右すると考えられる。ただし、技術進歩によって生成AIなどが提供するもっともらしさはますます向上し、「嘘」と「本当」の境界がよりあいまいになる可能性は十分に考えられる。その際、何を拠り所とするのかが各人に問われることになるだろう。

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