重要提案行為の見直し(金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」報告を受けて)

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2024年01月29日

金融商品取引法の研究者の甲とその旧友で上場会社の総務部長の乙との対話

甲:わが国の公開買付けや大量保有報告のあり方について検討していた金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」の報告(※1)が、2023年12月25日に公表された。乙が期待していた、発行会社がその実質株主を把握するための仕組みについても、「欧州諸国の制度を参考に適切な制度整備等に向けた取組みを進めるべき」(p.17)と前向きな提言がなされている。

乙:できれば、実質株主が誰かを回答しなければ議決権を停止するような、もっと突っ込んだ内容を期待していたのだが…。これからの会社法を含む議論に期待したいところだ。ところで報告書の提言で気になることがある。重要提案行為についてだ。

甲:機関投資家のエンゲージメント活動を促進するために、重要提案行為の範囲を明確化、つまり、範囲を限定しようという提言のことか?

乙:そうだ。これから、ますます経営方針などに対する注文が増えそうだと身構えている。

甲:おいおい、「株主との間で建設的な対話を行うべき」(基本原則5)と謳っているコーポレートガバナンス・コードにコンプライしている会社がそれでいいのか?

乙:もちろん、真面目な機関投資家との対話にはやぶさかではないさ。危惧しているのは、無理難題を要求して、応じないと株式を買い増すぞ、と脅してくるようなケースだ。

甲:気持ちはわかるが、そもそも重要提案行為は大量保有報告書やその変更報告書の提出頻度に関わる制度だ。同じ投資先を運用方針の異なる複数のポートフォリオで保有して、日々大規模な売買を行っている機関投資家の場合、仮に重要提案行為に抵触すると、月2回の基準日ベースで報告すればよい「特例報告」が利用できず、都度の報告が必要となり大変な事務負担となるだろう。他方、ターゲットとする投資先を最初から絞り込み、様々な要求を行いつつ、日々の売買の対象とはしない方針のファンドの場合、「特例報告」が使えなくてもそれほど大きな影響が生じるとは考えにくい。

乙:確かに、厳しい要求をしてくるファンドの中には、最初から「特例報告」を利用していないところもあるな。

甲:少なくとも報告書の基本姿勢は、乙が言う「真面目な機関投資家」が過度に萎縮することなくエンゲージメント活動に取り組めるようにしようというものだ。そのことは、報告書が提言する重要提案行為の範囲からも読み取ることができる。

乙:具体的にどうなるのだ?

甲:まず、役員の指名などといった企業支配権等に直接関係する行為を目的とする場合については、これまで通り、重要提案行為に該当する。

乙:では、配当方針の変更は?

甲:配当方針の変更など企業支配権等に直接関係しない事項の提案行為を目的とする場合は、その提案行為の態様に着目することとなる。例えば、株主提案権の行使や株式の追加取得等を示唆するなど、採否を発行会社の経営陣に委ねないような態様で提案を行う場合は、重要提案行為に該当するという考え方が示されている。

乙:なるほど。確かに発行会社としても理解できる考え方だ。ただ、企業支配権等に直接関係するとか、提案行為の態様とか、基準としての曖昧さは残るのではないか?

甲:その点は否定できない。例えば、サステナビリティに関する提案は、通常、企業支配権等に直接関係しないと考えられるが、独立社外取締役や取締役会のダイバーシティに関する提案となると、役員の指名とも関係するので微妙なところだ。

乙:引き続き重要なテーマだからな。対話の相手となる発行会社としても、法令やガイドラインでどこまで明確になるか、注目したい。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳