折り紙付きに学ぶ
2024年01月24日
先日、東京国立博物館で開催している特別展「本阿弥光悦の大宇宙」を鑑賞した。恥ずかしながら本阿弥光悦という人物を知らず、展覧会の題名に大宇宙とあったものだから、てっきり江戸時代の天文学者か、もしくはその名前から、観阿弥、世阿弥等、能に関する方なのか程度の気持ちで臨んだ。結果、この展覧会で、本阿弥光悦が「一生涯へつらい候事至てきらひ(へつらうことが大嫌い)」で「異風者(少し変わった人)」として、戦国時代から江戸時代にかけて活躍した書道、漆芸、陶芸等、マルチアーティストであることを知ることになる。既にご存知の方には釈迦に説法ではあるが、超有名人だったのである。
さて、作品で印象深かったのは、2点。
一つは、国宝『舟橋蒔絵硯箱』。硯箱に金粉を蒔いて金地に仕立て、『後撰和歌集』の歌を銀で散らしたもので、特異な形状も相まって独特の世界観を感じた。もう一つは『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』。こちらは俵屋宗達との合作であるが、俵屋宗達の絵の強弱と本阿弥光悦の書の強弱がシンクロしており心を打たれた。陶芸も素晴らしかった。今回展示こそされていなかったが、国宝である、白楽茶碗『不二山』もぜひ見てみたいと思った。こちらは常設展示ではないようなので、展覧会日程をしっかりと調べた上で、長野県諏訪市のサンリツ服部美術館にぜひ足を運んでみたいと思う。
この本阿弥家であるが、元々は刀剣の鑑定と研磨を業としており、刀剣の鑑定書である刀剣の折り紙を発行していたようである。ここでいう折り紙とは、絶対に間違いないと信頼するに足る、保証付きという意味で使用される、「折り紙付き」の“折り紙”である。刀剣鑑定は、現在も日本美術刀剣保存協会等で行われており、また、昨今よく耳にするNFT(Non-Fungible Token)はデジタルアートが対象とはなるが、一種の鑑定書である。今も昔もその価値を第三者に保証してもらいたいという人間の願望は変わらないものであるようだ。確かに心の拠り所としての鑑定は十分に理解できる。
ただ、一方で、その物の価値は最終的に自分自身で決めなければならないことも事実である。先入観を持たずに物事を考え、第三者の意見を補完的に参考にする。この一見相反する動作をバランス良く行うことこそ、自身の審美眼を養う上で肝要であると、改めて光悦から学んだ気がした。
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