DXの「次の次」は何か?

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2023年12月04日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 中島 尚紀

企業をめぐるテクノロジー活用で、近年最も注目を集めたキーワードは「DX」であろう。コロナ禍を契機に、ビジネススタイルの変化と効率化推進が進み、多くの企業で「業務のデジタル化」が急速に進んだ。クラウドサービスや5Gを利用したモバイル環境など、業務の「場所」を問わないテクノロジーの広がりも、デジタル化が有効となった一因であろう。それに合わせてユーザ主導のシステム開発を進め、革新的なサービスと優れたUI/UXを提供し、社会の新たなバリュー導出に繋げた企業も多数ある。

では、次に続くキーワードは何だろうか?これが「AI」であることも、ほぼ間違いない。プロセスのデジタル化で蓄積されたデータは、データサイエンスやAIを利用した活用が進んでいる。またデジタル化されたデータを入力し、一部の処理をAIに代行させる、といったことが比較的容易にできる環境も整備されてきている。

これに加え、生成AIの「民主化」は業務遂行に対して大きなインパクトを与えている。AIの利用範囲が判別や予想から創造的なタスクにまで広がる可能性を示したことで、企業におけるAIの位置づけは「オプション」から「必須」、さらには「救世主」にすらなってきている。

では、DX・AIに続くキーワードは何か?企業価値に与えるインパクトを踏まえると「GX(※1)」はその候補の一つであり、推進にあたりDXやAIの活用も検討されている。しかしながら、GXはDX・AIの延長線上にあるとは言い難い。これらの延長線の「次」は、私は「コントロール技術」ではないかと考える。

DX・AIの一連の流れは、テクノロジーの利用を促進し、社会の発展に繋がってきた。一方で、技術の利用が拡大する過程においては、大きな期待が醸成される時期に続き、過剰な期待への幻滅と利用上の課題が注目される時期の双方を経て、利用が広がっていく傾向がある(※2)。これまであいまいに認識されてきた課題、例えばAIが人の能力を幅広い分野で超えた場合にAIの判断の責任を誰が持つのかといった点が改めて社会に意識され、その対策が求められる時期が早々に訪れると考えられる。

このフェーズでは、必ずしもテクノロジーだけが解決策ではなくなるだろう。つまり、データ活用ポリシーやAI倫理などの利用上のリスクを回避していくためのルールの整備がまず進み、そしてそれを正しく運用していくための「コントロール技術」が導入されるのではないだろうか?一例として、生成AIにおいて、倫理的に望ましくない情報のインプット・アウトプットを制限する動きが見受けられる。また、説明可能なAI(※3)への注目も一層高くなっている。

加えて、AIとサイバーセキュリティの関係も一層注目されるのではないか?AIによる判断の重要度が高まるほど「AIへの攻撃」、さらには「AIによるAIへの攻撃」などが増加するだろう。「特定の意図に従って動くようにAIを学習させる」ような、これまでとは全く違う攻撃も考えられ、これらをコントロールすることも重要になる。

一方、コントロール、つまり制限は技術の進化を遅らせる可能性が高く、「抜け駆け」で技術を進化させていく主体の出現も想定される。AI規制の主導権をめぐり、各国がせめぎ合っているのはその一環と考えられる。従って「コントロール技術」を実装していくことは、社会全体で対応すべき大きな課題になる可能性も否定できない。だからこそ、コントールをうまくできることこそが、DX・AIに続くテクノロジーとして、イノベーションに繋がるのではないか。これからの状況の進展に期待していきたい。

(※1)グリーントランスフォーメーションのことで、脱炭素社会を目指しクリーンなエネルギーを利用する取り組みを通じ、経済成長や社会全体の変革を促すこと。
(※2)例えば、ガートナー社はハイプサイクルという形で個々の新テクノロジーの利用が進む過程を評価している。
(※3)AIの判断に対して、どのような経緯や理由でその判断に至ったかを説明できるAI。

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中島 尚紀
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コーポレート・アドバイザリー部

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