似て非なるインパクト投資とESG投資

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2023年08月28日

インパクト投資は、金銭的収益の獲得を目指しつつ、投資を通じて環境や社会にポジティブなインパクトを与えることを目的とする。インパクト投資を促進している国際非営利団体のGIIN(Global Impact Investing Network)は、世界全体のインパクト投資の運用資産額を1兆1,640億米ドルと推計している(2021年12月時点)(※1)。日本の運用資産総額に関しては、GSG国内諮問委員会(インパクト投資を推進するグローバルなネットワーク組織であるThe Global Steering Group for Impact Investmentの日本組織)が2022年度にアンケート調査を実施しており、5兆8,480億円と推計している(2022年3月末時点)(※2)。

インパクト投資という呼称やコンセプトは、欧米を中心に2000年代後半頃から広がり始めたといわれている。世界共通の定義・要件があるわけではないが、GIINはインパクト投資を構成する要素として、①環境や社会にポジティブなインパクトを与える投資家の意図、②金銭的収益への期待、③期待する金銭的収益とアセットクラスが多様であること、④インパクト測定と報告へのコミットメント、の4つを挙げている。

環境や社会を考慮する投資といえば、ESG投資を頭に思い浮かべる方が多いのではないだろうか。インパクト投資とESG投資は、重なる部分もあるが、基本的には別のものである。特に違うのは前述の①と④であろう。投資家がESG投資を行うにあたって、環境や社会にポジティブなインパクトを与える意図は必ずしも必要ない。インパクト測定も行う必要はない。

インパクト投資の推進は、岸田政権が掲げる新しい資本主義の施策の1つに掲げられている。2022年10月には金融庁が「インパクト投資等に関する検討会」を設置しており、2023年6月には同検討会が「インパクト投資等に関する検討会報告書-社会・環境課題の解決を通じた成長と持続性向上に向けて-(案)」を公表している。当該報告書には「インパクト投資に関する基本的指針」が含まれており、最終版確定後はその指針をもとにより多くの投資家がインパクト投資に取り組むことが期待される。(2023年10月10日までパブリックコメントの募集が行われ、その後最終版が公表される予定である。)

なお、ESG投資に関してはESGを掲げるファンドが世界的に増加した結果、運用実態が見合っていないのではないかという問題(いわゆるグリーンウォッシング/ESGウォッシング問題)が指摘され、世界各国で様々な規制の導入が行われている。インパクト投資に関しても拡大の過程で同様の問題が生じる懸念があるが、インパクト投資はインパクト測定が重要な要素である。インパクト測定の結果が適切に開示されれば、ウォッシングの問題は回避できるのではないだろうか。

(※1)GIIN“GIIN SIGHT 2022 SIZING THE IMPACT INVESTING MARKET”(2022年10月12日)を参照。推計方法の違いなどから、同団体が過去に公表しているインパクト投資の運用資産額の数値とは連続しない。
(※2)GSG国内諮問委員会、社会変革推進財団「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2022年度調査」(2023年5月19日)より。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美