米国の金融を不安定にしているのは金融当局?

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2023年05月26日

米国では2023年3月の一連の銀行破綻の際に、システミック・リスクに対する懸念が高まった。システミック・リスクとは、個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクを指す。システミック・リスクは、銀行部門だけでなく、証券会社、投資ファンド、保険会社、年金基金、その他金融仲介機関などのノンバンク(シャドーバンキング)からも発生する可能性があり、米国ではその対処について今般の銀行破綻以前から議論されていた。最近、ノンバンクからのシステミック・リスクへの対応として、金融安定監督評議会(FSOC。イエレン財務長官が議長)の提案と証券取引委員会(SEC)の改正規則が公表された。

FSOCは、「金融安定化リスクの特定、評価、対応に関する評議会の新たな枠組み案」と、「ノンバンク金融会社の指定に関する解釈指針案」を2023年4月に公表した(※1)。FSOCは米国金融システムの安定性に係るリスクの特定や、金融システムの安定性に対する脅威が生じた場合に対処する機関であり、米国の金融安定にリスクを及ぼすと考えられるノンバンク金融会社を「システム上重要な金融会社」に指定する権限を有する。指定されたノンバンク金融会社は連邦準備制度理事会(FRB)の監督下に置かれ、厳格な規制の対象になる。イエレン議長は、前政権時の2019年に発行された指針により、FSOCがノンバンク金融会社を「システム上重要な金融会社」に指定することが困難(指定プロセス完了に6年かかると推定)になったと批判し、手遅れになる前に金融の安定性に対する新たなリスクに対処すべくFSOCが行動できるようにするために、今回の提案に至ったとしている。

またSECは、プライベートファンド、ヘッジファンドのSECへの報告を強化する規則改正を5月に公表した(※2)。システミック・リスクが生じる可能性のあるイベント、例えば、ファンドの多大な投資損失や投資家からの解約による資金の引出し・償還などが発生した場合に、直ちにSECに報告することが求められることになった。

SECが規則改正する際に、SEC委員5名のうち民主党系委員3名が賛成、共和党系委員2名が反対した。FSOCの提案も民主党政権下であるが故の動きである。米国の党派対立は金融規制にも及んでおり、2024年の大統領選挙で政権政党が交代した場合には、規制が再度変更される可能性がある。

党派対立が金融の安定性に影響を与えることがあるのは米国に限った話ではない。しかし、特に米国では、金融システムの「安定」を使命とする規制当局が、党派対立により結果として金融システムを「不安定」にしているともいえるだろう。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬