30年ぶりの出来事

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2022年11月04日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光

わが国の経済において「約30年ぶり」とされる出来事が多く発生している。最近では為替市場で円安が進み、ドル円レートが150円台を一時突破したことや、消費者物価上昇率が前年比+3%台を記録した(消費増税の影響を除く)ことなどだ。また、昨年のことになるが、日経平均株価の30,000円台到達も同様である。

30年というと、人間社会においては概ね一世代の差に相当する。2022年の現在、1990年前後のことをリアルタイムでは知らない方々も多いだろう。その30年前から直近までのマーケットの推移を振り返ると、ドル円レートは現在よりも円高水準に、株価は株安水準に位置していたことになるが、それぞれの水準が昔に戻ってきたことについて、意地悪な見方をすれば振り出しに戻ったといえるのかもしれない。30年の時を経て、筆者のように当時をリアルタイムで知る世代はある意味感慨深い一方で、これまでが「失われた30年」であったとの厳しい評価もなされるだろう。

約30年ぶりの水準にマーケットが戻ってきたことに対して、その背景にあるファンダメンタルズは、当時と似ているのではなく、むしろ逆方向を向いていることが指摘できる。放物線のように、ある高さを上向きで突破した後、再び同じ高さに戻るときには下向きになっていると考えるとわかりやすい。実際に、30年前の日本は貿易収支が黒字基調であったのに対して、直近では貿易赤字の拡大が懸念されている。一方で、30年前は一種のインフレともいえるバブル経済が終わりつつあったのに対して、現在はデフレ懸念が払拭されつつあるといえよう。

現在を生きる我々には、30年前にはなかった発想や知見も多くあるはずだ。よって、マーケットの水準が戻ったことに関してただ感慨に浸るのではなく、現状を冷静に見つめながら、過去よりも有利となり得る点については今後に活かすしたたかさが求められよう。例えば円安はインバウンドの増加のみならず、日本への直接投資を呼び込むチャンスにもなる。またインフレは、実物資産に加えて株式等の一部金融資産価格の上昇によってある程度ヘッジできると考えられる。貯蓄よりも投資を重視すべきであることは、将来的にわが国の金融緩和が出口に向かう際にも通じる考え方だろう。主に企業による国内への投資と家計による資産投資が増加することで、国内における前向きな投資の循環に進展することを期待したい。

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佐藤 光
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