中長期的観点からのオープンイノベーション促進税制見直しの必要性

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2022年06月20日

  • 斎藤 航

政府は2022年を「スタートアップ創出元年」とし、スタートアップ支援を明確に打ち出している。さらに、岸田政権の看板政策である新しい資本主義に向け、6月7日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定された。その中で、重点投資の4本柱の一つとして「スタートアップへの投資」が挙げられており(※1)、新しい資本主義の実現のため税制改正は「中長期的観点から機動的に行う」旨が述べられている。

税制面でスタートアップへの投資を支援する施策は幾つかあるが、その一つに、「オープンイノベーション促進税制」がある。本税制は、国内の事業会社またはその国内コーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)(※2)が、スタートアップ企業とのオープンイノベーション(※3)に向け、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%が所得控除される制度である。その目的は、自社だけで技術革新を図ろうとする既存企業の考え方を転換し、既存企業が、自社にない技術等を持つスタートアップ企業と連携することで、生産性向上につながるイノベーションを行うことを税制面で支援することにある。

本税制は2022年度税制改正により、所要の見直しがされた上で、適用期限が2024年3月末まで2年延長されている。具体的な改正点としては、改正前は設立10年未満のスタートアップ企業が対象であったが、設立15年未満の(赤字であっても研究開発に積極的な)スタートアップ企業も対象となるようにするなど制度が拡充されている。これにより、対象企業が広がり、オープンイノベーションの動きが加速することが期待される。

一方で、スタートアップ企業の要件として、「既に事業を開始している」ことが求められていることは変わらず、スタートアップ企業の新規設立時の出資は本税制の対象にならない。つまり、CVC等から出資を受けた起業家が新たにスタートアップ企業を立ち上げるケースでは、本税制の対象外となってしまう。CVC等と起業家が事業構想をまとめ起業する機会を増やすためにも、スタートアップ企業の新規設立時の出資も本税制の対象に追加するよう見直してはどうだろうか。無論すべての事業がうまくいくとは限らず、既に事業を開始しているスタートアップ企業と比べると、事業開始後の市場の反応の実感が得られていないなどの点で、既存企業にとってはよりリスクのある出資になるかもしれない。しかし、スタートアップ企業の事業開始・その後の成長を見据えた中長期的な時間軸で、既存企業がリスクとリターンを比較し、スタートアップ企業に出資・協働することで、新たなイノベーションの創出の促進が期待される。まさにオープンイノベーション促進税制の改正は「中長期的観点から機動的に行う」ことが求められているのではないか。

(※1)6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる「骨太の方針」)にも同様の記述がなされている。
(※2)CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とは、事業会社が自社の事業とのシナジー効果などを期待し、社外の新興企業に対して投資活動を行う組織のことを指す。
(※3)オープンイノベーションとは、自社内外のアイデア等を活用し、創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことをいう。詳細は以下を参照されたい。

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