植物の多様性保全についてもっと考えよう

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2021年12月28日

  • 経済調査部 市川 拓也

先週の12月22日は一年で昼の時間が最も短い「冬至」であった。日本にはこの日に柚子湯に入る習慣がある。柚子と言えばよい香りのする柑橘(かんきつ)系の植物であり、柑橘類には柚子の他、温州みかん、八朔(はっさく)、夏みかん、すだちなど多くの種類がある。しかし、肝心の「橘」は目にすることがないのではなかろうか。

それもそのはず、そのまま食べるには酸味が強すぎる上、環境省レッドリスト2020で「タチバナ Citrus tachibana」は準絶滅危惧に、「コウライタチバナ Citrus nippokoreana」は絶滅危惧IA類(絶滅危惧のカテゴリーで上位)にそれぞれランク付けされている。食用に適さなければ、自ずと食品として目にする機会は限られる。そもそも絶滅が懸念されるほど少ないのであれば、実物を見かけないのも当然であろう。

筑波実験植物園のウェブサイトによると、日本で植物を絶滅に追い込んでいる要因のうち人間の直接関与が約80%を占めるとされる(※1)。「特に森林伐採と園芸栽培や売買を目的とした採取がその大きな要因」であり、「地球温暖化などによってもたらされる自然遷移の多くが人間の活動と間接的に関与」とあるから、そうであれば植物の絶滅の多くが人間の経済社会活動と密接な関係にあるということになる。現在では生物多様性が重視されるようになってきているが、これらの人間の活動が植物の多様性を奪ってきたのであれば、絶滅に追い込むような行動は少しでも避けていきたいものである。

しかし、現代人が植物の多様性や絶滅について理解できているかを問われれば心もとない。絶滅した動物としてナウマンゾウを挙げるように、絶滅した植物の名を一つでも言えるだろうか。こうした現状にあっては、一定の植物が絶滅に瀕している事実に我々が関心を持つことが多様性保全の第一歩となり得るに違いない。見た目が良くよい香りを発するか、食べて酸味が強すぎないかといった花や果実などの価値ばかりではなく、多様性保全の角度からより広い視野で植物を捉えていくことが必要であろう。

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