自動車のペントアップ需要は中古車市場で発現したか

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2021年11月15日

  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉

部品の調達難を背景に、2021年初から自動車の供給制約が続いている。世界的な半導体不足に加え、部品調達元の東南アジアにおける新型コロナウイルスの感染拡大により、9月の国内生産台数は前年比▲5割程度(※1)と大幅に落ち込んだ。とりわけトヨタ自動車やホンダでは同▲6割程度、ダイハツやSUBARUでは同▲7割程度に達した。他方、三菱自動車や日野自動車は前年比で増加した。前者は落ち込みが大きかった前年の裏の影響が出ており、後者に関しては、トラックは一般的に乗用車と比べて半導体の使用量が少なく、半導体不足の影響を相対的に受けにくかったとみられる。

自動車需要は引き続き旺盛で、需給がひっ迫する中で自動車の納期は大幅に延びている。日本経済新聞社によると、10月時点でトヨタ自動車「レクサスNX」の納期は6カ月、「ハリアー」「ヤリス クロス」は5カ月と、通常の2倍程度だという。またホンダ「ヴェゼル」は一部車種で1年以上になる場合もある。

こうした影響は中古車市場にも及んでおり、需給のひっ迫で価格が大幅に上昇した。中古車のオークションを運営するUSSによると、同社の仲介により成約した車両の平均単価は10月まで9カ月連続で前年比2桁増となった。自動車の主要な輸出先である米国でも中古車価格が大幅に上昇しており、4月~10月は同+20~40%程度で推移した。

だが意外なことに、中古車販売は日米ともに増加するどころか減少傾向にある。日本の中古車販売台数は2019年10月の消費増税を境に新車販売台数との乖離が大きくなったものの、その後は概ね新車と同様の推移をたどり、2020年央からは緩やかに減少している(図表左)。日本に比べて中古車市場の規模が大きい米国においても、新車販売が減少した2021年春以降に中古車販売が増加した様子は見られない(図表右)。

背景には新車の供給不足があるとみられる。自動車の買い替え機会の減少で流通市場に出回る中古車が減少し、モデルの選択肢や供給量の少なさから「買いたくても買えない」状況が発生しているのだろう。だとすれば、自動車のペントアップ(繰越)需要は積み上がっており、自動車メーカー各社が挽回生産を行う段階でその需要は発現することになる。個人消費や輸出は大きく押し上げられ、経済活動の正常化が進む日本経済の回復を後押しするだろう。

日本の自動車販売台数(左)と米国の自動車ディーラーの実質売上高(右)

(※1)トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、ダイハツ、マツダ、スズキ、三菱自動車、SUBARU、日野自動車の合計。自動車メーカー各社の資料による。

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