コロナ禍をきっかけに非製造業の労働生産性は高まるか

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2021年03月02日

  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉

人手不足が深刻なサービス業では、省力化投資が新型コロナウイルス感染症の拡大前から増加していた。コロナ禍で従業員やサービス利用者への感染症対策が必要になったことで、省力化投資やデジタル投資が一部で加速している。

例えば、飲食店ではタブレット端末等を用いたセルフオーダーシステム、宿泊業ではセルフチェックインシステムの導入が進んだ。スーパーではセルフレジや、購入者が決済のみを行うセミセルフレジが増加した。さらに、マルエツやマックスバリュの一部の店舗では、レジに並ぶことなくスピーディーに決済できる「Scan & Go」というサービスが開始された。購入する商品のバーコードをアプリで読み取り、決済はQRコードをレジの端末に読み込ませるだけで完了する。これまでサービスの質が落ちるとしてデジタル化に消極的だった企業も、感染症対策を迫られたことで方針を変えたのではないか。

長い目で見ると、人口減少と少子高齢化により人手不足はますます深刻化すると見込まれる。コロナ禍を乗り切るため、労働集約的な産業であるサービス業で省力化投資やデジタル投資が積極的に行われていることは、アフターコロナ時代への対応という観点からも重要だ。もっとも、サービス業は労働生産性の分母にあたる労働投入の効率化だけでなく、分子の付加価値拡大の取り組みも必要である。日本は無料のサービスの多さや丁寧な接客が特徴で、サービス業の労働生産性は米国の5割程度、ドイツの6割程度と国際的に見て低水準だ(※1)。

例えば、定型業務の「標準化」を進めて省力化・デジタル化の余地を高めつつ、従業員を低付加価値の定型業務から高付加価値の非定型業務へとシフトさせ、新たなサービスやビジネスモデルの開発、顧客の開拓、情報発信の強化などに経営資源を重点的に配分することが考えられる。新たな取り組みを行う上では、人材投資の重要性が増すだろう。

コロナ禍をきっかけに、サービス利用者もセルフサービスを受け入れやすくなった。「サービス=ただ」という日本人の常識は変わりつつある。サービスの多様化や高付加価値化が加速する可能性があり、政府はIT導入補助金や、企業の新分野展開や業態転換などの取り組みを支援する事業再構築補助金の事業を進めている。アフターコロナのサービス業には、新発想のおもてなしを期待したい。

(※1)滝澤美帆「産業別労働生産性水準の国際比較~米国及び欧州各国との比較~」(日本生産性本部 生産性レポート Vol.13、2020年5月)

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