拝啓、ジョー・バイデン殿

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2021年01月25日

政権交代期には、新たなリーダーに対する期待・要望を書いたニュース記事があふれる。その中で、2021年1月20日に第46代米大統領に就任したジョー・バイデン氏に向けた「拝啓、ジョー・バイデン殿」という記事がある。米主要紙であるニューヨーク・タイムズ(NYT)とワシントン・ポスト(WP)の読者が、それぞれの新聞社の編集者を経由してバイデン新大統領に宛てた手紙という立て付けである(※1)。NYTの記事には8人からの手紙が、WPの記事には26人からの手紙が寄せられている。手紙を通じた、バイデン新大統領への要望は多種多様である。新型コロナウイルス感染拡大の収束、経済の立て直し、環境問題や人種問題への対応、警察改革など具体的な課題への対応を促すものもあれば、分断された米国の統一、民主主義の復活、失われた国際的な威信の回復など抽象的なものも多い。中にはトランプ氏の弾劾を徹底すべき、という声もあれば、トランプ氏のことは脇に置いて米国経済・社会が直面している課題に対応すべきといった、相反する声もある。多種多様な要望に、バイデン新大統領も頭を悩ませるかもしれない。

個別具体的な要望の是非はさておき、とりわけ興味深いのはWPに掲載されたトランプ支持者であるフロリダ州出身のChristopher Brazela氏(21歳)の手紙である。同氏は、2020年の大統領選挙でトランプ氏の得票数が2016年時に比べて1,200万票増えたのは、支持者がトランプ氏の業績に満足しているからであり、バイデン新政権によるトランプ路線の継続を期待しないものの、政党ではなく国にとって最善の政策は継続することを願っていると書いている。また、バイデン新大統領自身が、支持政党を超えて全ての米国人の大統領になると述べたことに対して、国を統一しようとする指導者となることを期待しているとも書いている。

Christopher Brazela氏の手紙は、米国が直面する現実を正確に表している。バイデン新大統領は選挙に勝ったとはいえ、トランプ氏の得票数が増えたことも事実であり、そうしたトランプ氏を支持した人々がすぐにバイデン氏支持に変わるとは考えにくいだろう。他方で、トランプ氏支持者の中でもこうした国の分断を憂う人がいるということは、米国を再び統一しようとするバイデン新大統領にとって朗報である。バイデン新大統領にとって、急進左派から中道派まで様々な民主党内をまとめ上げることだけでも大仕事ではある。しかし、自身の目指す「全ての米国人の大統領になる」ためには、トランプ支持者の声にも真摯に耳を傾け、彼らの信頼を勝ち取っていく努力が不可欠といえよう。

(※1)ニュース記事に関しては以下を参照。

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐