社外取締役に期待される役割の開示~改正会社法施行規則
2021年01月21日
令和元年改正会社法が、2021年3月1日に施行される。
令和元年改正会社法の下では、上場会社など一定の監査役設置会社に対して、「1名以上」とはいえ、法律上の義務として社外取締役の選任が求められることとなる。これに伴い、社外取締役に関する開示も拡充される。
例えば、2020年11月に公布された改正会社法施行規則では、取締役選任議案を株主総会に提出する際、社外取締役候補者について「選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」を株主総会参考書類で開示することを求めている。
「あれ、改正前でも『社外取締役候補者とした理由』の開示が求められていただろう?」
確かに求められていた。
しかし、「社外取締役候補者とした理由」の開示からは、候補者が、社外取締役に期待されている役割を果たすことができるか否かを評価するための情報は、株主に十分に提供されていないとの指摘があったのだ。
そこで、社外取締役候補者について、会社が「どのような役割を期待しているかをより具体的に記載することを要求するもの」として、今回の改正が行われたと説明されている(※1)。
開示に当たっては、こうした趣旨を踏まえて説明することが求められるだろう。
「どのような役割を期待しているか、と言われても…。『期待される役割』は『自らの知見に基づき、助言を行うこと』でもよいだろうか?」
コーポレートガバナンス・コード(CGコード)(原則4-7)も「助言」を独立社外取締役の役割・責務の一つとして掲げている以上、直ちに、悪いということにはならないだろう。
しかし、社外取締役の設置義務が導入された背景を踏まえれば、会社法が社外取締役という機関に期待している役割は、「少数株主を含む全ての株主に共通する株主の共同の利益を代弁する立場にある者として、業務執行者から独立した客観的な立場で、会社経営の監督」を行うこと、「経営者あるいは支配株主と少数株主との利益相反の監督」を行うことにあると考えられる(※2)。こうした観点から「取締役の職務執行の監督の内容として、具体的にどのような役割を果たすことを期待しているか」を記載すべきものと解されている(※3)。
その意味では、少数株主の利益の代弁や利益相反の監督に関する役割が期待されるべきであり、役割が「助言」のみでは、不十分ではないだろうか。
「そういえば、CGコード改訂についても類似のテーマが審議されていなかったか?」
おそらく「スキル・マトリックス」のことだろう。
CGコード改訂を審議している「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が2020年12月に公表した意見書では、取締役会の機能発揮の観点から、「取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、その上で、いわゆる『スキル・マトリックス』をはじめ経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを公表するべき」としている(※4)。
実施されれば、社外取締役に限られるわけではないが、今、その会社の取締役会に求められているスキル等の組み合わせのうち、それぞれの取締役が、どの部分をカバーしているのかを「見える化」することが求められることとなる。株主総会において説明する、社外取締役候補者に「期待される役割」も、これにリンクすることとなるだろう。
会社法だけの対応、CGコードだけの対応というのではなく、ガバナンスの全体像を見渡した上での対応が必要だと考えられる。
(※1)法務省「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」(以下、パブコメ回答)p.11
(※2)パブコメ回答p.10
(※3)パブコメ回答p.12
(※4)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保 『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』意見書(5)」(令和2年12月18日)p.2
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