失業率では捕捉しきれないコロナショックの影響度
2020年12月28日
2020年も残すところあと4日となった。年始時点では緩やかな景気回復が予想された2020年の日本経済は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて大幅に下振れした。実質GDPは緊急事態宣言が発出された4-6月期に前期比年率▲28.9%と、現行統計史上最大の落ち込みを記録した。直近の7-9月期は増加に転じたが、それでも前期の落ち込みの約6割を回復するにとどまった。
こうした状況のもとで雇用環境は悪化傾向にあったが、景気の大幅な悪化に比べれば失業率の上昇は限定的だった。失業率は2020年10月に3.1%に達したが、2000年代以降で見ればなお低水準にある(直近の11月は2.9%)。この点、政府の支援などを背景に企業が雇用維持に努めてきたことに加え、コロナショックはその性質上、過去の経済ショックに比べて失業率の上昇に結び付きにくい面があったことも指摘できよう。
注目したいのは、コロナショックが「宿泊業,飲食サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」などのサービス業を中心に業況を悪化させたことだ。製造業を中心に悪化させた過去の経済ショックとは事情が異なる。サービス業と製造業を比べると、サービス業における業況悪化や雇用削減は失業者数を増やさない傾向にあるように思われる。離職者の動きを業種別に見ると、サービス業からの離職者は総じて労働市場から退出する(非労働力人口となる)ことが多いからだ(図表)。
サービス業からの離職者が労働市場から退出しやすいのは、同業に勤める労働者の多くが被扶養者であることと関係がありそうだ。被扶養者は家計を補助する役割にとどまる分、離職後は積極的に求職をしない傾向にあるとみられる。実際、コロナショック下ではサービス業の労働者が急減する一方で、被扶養者の非労働力人口が大きく増加した。
コロナショックが失業率の上昇に結び付きにくいというのは、それだけ問題が軽微であることを意味するのではなく、むしろ失業率ではコロナショックによる事態の悪化を捕捉しきれない面があることを示唆する。足元では感染状況が悪化しており、日本経済が下振れするリスクは依然として小さくない。2021年も失業率だけではなく、労働参加率や所得など幅広い指標に注目して雇用環境を適宜把握することが肝要だ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
経済調査部
エコノミスト 田村 統久
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日

