中国の輸出管理法とTPP参加意向表明にどう対応するか?
2020年12月10日
中国は12月1日に「中国輸出管理法」を施行した。同法は、軍用品やデュアルユース(軍民両用)品などについて、国家の安全と利益を守るために、特定の品目の輸出を禁止できる旨を規定している。恐らくこれは、米トランプ政権によるファーウェイなどを対象とした輸出規制に対抗すべく導入した措置であり、一義的には米国を念頭に置いたものであろう。しかし、米国と同盟関係にある日本は当然のことながら、当事者として認識する必要がある。
同法には様々な懸念や問題点が指摘されているが、中でも厄介なのは、輸出禁止措置を発動する対象を中国当局が恣意的に拡大することが可能になっている点である。中国の「国家の安全」には、経済や文化、社会、科学技術、情報、資源の安全なども含まれるし、「国家の利益」に至ってはほぼ全てがその範疇に入りかねない。よって、日本を対象に恣意的な措置が発動されるリスクにも備えておく必要がある。2010年9月には、日本の海上保安庁の巡視船と中国漁船が尖閣諸島沖で衝突した事件を契機に、中国はレアアースの対日輸出を制限した。何かをきっかけに、同様のこと、またはそれ以上のことが、この法律に基づいて起きかねないということだ。
こうした状況に備えるには、軍用品やデュアルユース品などに加え、影響が波及し得るものについて、対中輸入依存度が過度に高い品目を選別し、中国が輸出規制をした時の代替ルートを事前に確保しておくこと、コスト面などで対中シフトが進んだが戦略的に重要な品目については、ある程度の国内生産を確保しておくことなども重要だろう。
一方で、中国は11月15日に、日本、韓国、ASEAN各国などとともに、東アジアの「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」に署名した。さらに、11月20日には習近平国家主席が環太平洋パートナーシップ(TPP)協定への参加を「積極的に考える」と発言した。こうした動きと中国輸出管理法の施行は矛盾しないのか、という疑問もあろう。これについては、米国の対中禁輸措置への対抗として施行した輸出管理法は対象品目を極小化し、それ以外の品目ではRCEPをテコに貿易の拡大と中国を核とするサプライチェーンを強化したいというところだろう。
中国のTPP参加については、細心の注意が必要である。もともとTPPは米国が主導した中国包囲網的な性格があった。しかし、米国不在の状況で中国が参加すれば、参加時もしくは参加後に、知的財産権や政府調達などのルールを骨抜きにしてしまう可能性がある。是々非々の交渉が必要なのは、言うまでもないが、TPPの効果を最大限に維持するために、順番として好ましいのは、米国がTPP参加交渉に復帰し、厳しいルールを維持できる力を取り戻したのちに、中国が参加することではないかと考えている。
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経済調査部
経済調査部長 齋藤 尚登
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