2020年10月27日
新型コロナウイルスの影響や世界情勢の急激な変化によって、「働き方改革」や「定年延長」への対応は、大きな転換期を迎えている。「リモート」という新たなキーワードが登場し、テレワーク(在宅勤務)や時差通勤の積極導入、フレックス勤務の拡大運用に留まらず、捺印電子化やペーパーレス化も加速した。皮肉にも新型コロナウイルスへの感染防止策により、働き方改革の3本目の柱であった「多様な働き方の実現」は急速に進展したといえる。
多様な働き方の実現が進む一方で、「雇用年齢の拡大義務化」に伴う人事制度の見直しも急務となっている。人件費の抑制や制度変更の簡便さから一時的に「再雇用制度」の導入で対応してきた企業も、中長期的な視点で「定年延長」への移行を模索している。しかし、定年延長の導入は新たなコスト増加要因となる。多くの企業は、成長戦略を描きなおす猶予もないまま、外部環境の急変による不安要素を抱えつつ、雇用年齢の拡大を見越したコスト削減策に取り組まなくてはならない状況にある。
コスト削減の初期的対応策として、在宅勤務への切り替えによるオフィス賃料や交通費の削減、週休3日制、週休4日制等の導入による人件費削減策等、新たな動きが見られる。ところがこれらの事例は、新型コロナウイルスへの感染防止策に便乗したコスト削減策で、「企業の成長」という本質的な課題解決にはつながらない。本質的な課題と向き合うということは、単なるコスト削減ではなく、キーマンとなる人材のモチベーションを高めるための最適なコスト配置を実践することである。すなわち、総じてコストを下げつつもやる気のある社員にチャンスを与え、その成果を多用な評価軸で定量化できる「メリハリのある評価制度」の導入実現にほかならない。
では、「メリハリのある評価制度」を導入するためには、具体的に何をすればよいのか。様々な方法があるが、今すぐできることがある。例えば、売上への貢献や業務効率の改善、新たなビジネスの立ち上げ等による表彰履歴(「社長賞」、「〇〇貢献賞」の受賞歴)や、社員間での「一緒に仕事したい人」「職場で一番のムードメーカー」等の人気投票結果でもよい。実践的な評価につながるものをリスト化してポイントに置き換えてみる。過去に評価できる材料がなくても、社長が直々に「経営課題に直結するお題」を出して、部署や個人で作成した課題解決プランを評価対象とすることもできる。
多様で実践的な評価軸を持つことで、業務外の特技や特異的な対応能力を持つ者など、逆境であっても成果を生み出せる光る原石を見つけることができるかもしれない。能力ある人材を発掘しチャンスを与え、その成果を多面的に評価する仕組みづくりこそが、組織を成長に導いてくれる。
定年延長と働き方改革に対応すべく全体的なコスト削減を行いながらも、メリハリのある評価制度を構築することで、「やる気のある社員」と「真に実力のある社員」のモチベーションは高められる。安定的な時代では画一的な評価基準が優先され、なかなか実践できなかった試みであるが、今こそ本質的な改革に挑戦できるチャンスといえる。
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データアナリティクス部
主任コンサルタント 耒本 一茂
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