アナリストのリサーチ、タダにしたほうがいい場合もある?
2020年09月16日
3年半近く前になるが、「証券会社のリサーチはタダじゃない?」と題するコラムを寄稿した(※1)。欧州連合(EU)のMiFID Ⅱ(※2)における、「リサーチ費用のアンバンドリング」を紹介したものだ。
MiFID Ⅱが2018年1月から施行されて以降、リサーチを提供する証券会社は、自社のリサーチに売買の執行手数料から独立した値付けをし、別途顧客に開示することが求められている。その影響か、セルサイド・アナリストのリサーチ・カバレッジは縮小傾向にある。特にその傾向が顕著なのが、中小型株と債券のリサーチである。
目下、欧州委員会は、この「リサーチ費用のアンバンドリング」を、EUにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックからの経済再生における「足枷」と位置付けている。というのも、投資家の投資意欲を喚起しなければならない状況下にありながら、中小型株と債券のリサーチが不足しているためである。
そこで、欧州委員会は、本年7月に、中小型株(時価総額10億ユーロ以下)と債券については、「リサーチ費用のアンバンドリング」の適用を免除する旨のルール改正案を公表している(※3)。
このルール改正案がCOVID-19対策であることは、そのサブタイトルが‘amending delegated directive (EU) 2017/593 as regards the regime for research on small and mid-cap issuers and on fixed-income instruments to help the recovery from the COVID-19 pandemic’とされていることからも明白である。もっとも、時限措置という位置付けではない。
投資業者と顧客との間の利益相反の芽を摘むべく、「アナリストのリサーチはタダじゃない」ことの明示を義務付けたMiFID Ⅱであったが、COVID-19のパンデミックという異例の事態を前にしては、その副作用としてのリサーチ・カバレッジの縮小には目をつぶれなかったようである。
このルール改正案が実施されるためには、欧州議会とEU理事会の承認が必要となる。COVID-19のパンデミックからの経済再生という緊急性を考慮すると、特に反対意見もなく成立する公算が大きく、早ければ2021年初旬から適用が開始される可能性があろう。
今回の欧州委員会の動向をみても、比較的ロットが小さいと思われる中小型株や、一般にリサーチ費用がスプレッドに織り込まれているわけではない債券のような、一部の運用商品については、「アナリストのリサーチをタダにしたほうがいい場合もある」と考えるのは早計だろうか。
(※2)EU版の金融商品取引法である“MiFID:Markets In Financial Instruments Directive”(2007年11月施行)の改訂版をいう。
(※3)パブリックコメントの募集は、本年9月11日に締め切られている。
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- 執筆者紹介
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
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