テレワークは日本に浸透するか

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2020年08月26日

  • コンサルティング第一部 主任コンサルタント 吉田 信之

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大により、東京オリンピックの延期や緊急事態宣言による外出自粛など、2020年は未曽有の事態への対応が迫られる年となった。企業にとっても、社員の安心・安全を確保しつつ、いかに経済活動を効果的に実施するかという、ある種トレードオフな判断を迫られることとなり、今なお自分たちにとってのベストを模索している状況かと思われる。これまで、テレワークにどちらかといえば消極的であった企業も、顧客からの要請等もあり、コロナ禍において一斉にテレワーク導入の可否について検討を始めた、というのが実際のところではないか。

そんな中、2020年7月21日に公益財団法人日本生産性本部が「第2 回 働く⼈の意識に関する調査」の調査結果レポートを公表した。第1回調査を5月に実施しており、前回調査との差異分析が行える点でも非常に興味深い。なかでも、本コラムにおいては「図28テレワークの実施率」「図31自宅での勤務で効率は上がったか」「図38 コロナ収束後、変化は起こり得るか」の3つについて取り上げてみたい。

「図28 テレワークの実施率」については、実施率が31.5%(5月)→20.2%(7月)と減少し、調査結果レポートにも言及されているように、オフィスワークへの回帰が進んでいる現状が伺える。まずは、緊急事態宣言が解除されたことをもって、自粛期間の終了と判断した人(企業)が相当数いたと推察される。

図28 テレワークの実施率

一方で、「図31 自宅での勤務で効率は上がったか」という設問については、「効率が上がった」「やや上がった」の合計でみると、33.8%(5月)→50.0%(7月)と増加しており、この2か月間で効率が上がったと感じている人が増えていることを示している。すなわち、初めはテレワークを手探り状態で始めてみたが、2か月間、試行錯誤を重ねた結果、テレワークの効率的な運用を習得した人が多かったと思われる。その意味では、今回のコロナ禍という非常事態をひとつのきっかけとして、テレワークという働き方に関するノウハウが、一定程度蓄積されたといっても過言ではないだろう。

図31 自宅での勤務で効率は上がったか

この2つの結果を踏まえると、テレワークによる効率的な働き方のノウハウが蓄積されつつある中で、テレワークの実施率が下がってしまうのは何とも残念な話である。

また最後に「図38 コロナ収束後、変化は起こり得るか」という設問においては、『都会から地方への移住』という変化が起こり得るかについて聞いているが、変化が起こり得るかもしれないと回答した人の割合は、この2か月で増加している(30.2%(5月)→38.5%(7月))。私個人としても、テレワークの最大の利点は「場所を選ばずにどこでも仕事ができること(通勤時間の削減等のメリットを含む)」だと感じており、テレワークが浸透していけば、地方への移住は進むかもしれないと思う。

図38 コロナ収束後、変化は起こり得るか

テレワーク実施に関するノウハウが十分に蓄積されれば、その効果の発現とともに認知され、日本企業に浸透していくことになるだろう。場合によっては、それが東京への一極集中や地方創生といった日本の積年の課題を解決する有用な手段ともなるかもしれない。その意味でも、今後のテレワークの積極的な有効活用・展開に期待したい。

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吉田 信之
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