2020年08月05日
欧州では、5月以降、新型コロナウイルスの新規感染者数や死者数の減少を受けて、各国がロックダウンの段階的な緩和を進め、外出制限の解除や経済活動の再開に動いてきた。各国によってロックダウンの程度が異なったように、緩和のプロセスも各国の実情に応じて千差万別である。だが、7月に入ると、人の動きが活発になるに比例して、新規感染者数が増加する地域が見られ、各国政府は外出規制を強化したり、局所的な再ロックダウンに踏み切るケースも散見される。
イングランドでは、6月半ばからの公共交通機関に加えて、7月24日から店舗やスーパーマーケット等でのマスク着用(顔を覆う)が義務化された。さらに、8月8日からは、美術館や映画館、礼拝所等でも、マスク着用が義務化される。もっとも、新方針発表から推奨しつつも、義務化開始まで約10日間も猶予を置くのは解せない。目的が感染予防であるならば、早々に導入できるはずであろう。
ともあれ、マスク着用義務の対象拡大により、イギリス人の態度に変化が表れている。世論調査会社YouGovが発表する公共の場におけるマスク着用率の推移を見ると、イギリスの場合、義務化拡大前の38%(7月12日)から7月末には69%へ大幅に上昇している。スペイン・イタリア・フランスの80%超には及ばないものの、ドイツ(65%)を上回る。1日当たりの平均死者数が約800人だった4月後半の着用率1割余りと比べると、隔世の感がある。最も衝撃的だったのは、目も覆った完璧なガスマスクを被った人がバスの乗車口に佇んでいた時で、一瞬、乗るのに躊躇してしまった。
このように悠長な措置があるかと思えば、間髪をいれずに実行された措置もある。感染第2波に対する強い警戒感の表れといえようが、その発表によって混乱が生じている。
イングランドでは、7月下旬にかけて、イングランド北部における限定的なロックダウン、カジノ等の営業再開の延期、スペインやルクセンブルクからの渡航者に対する14日間の自己隔離措置の再適用等を次々と決定した。
6月8日から義務付けられた自己隔離措置は、旅行者にとって実質的な出入国禁止であるため、業界からは、夏の観光シーズンを前に何とかしてくれという要望が強く、7月10日から欧州や日本等の国々への適用が免除された(※1)。ただ、適用免除リストは随時変更されることになっており、スペインは、感染の再拡大を理由に再適用第一号となった。
もっとも、発表から数時間後の再適用だったために、スペインでバカンスを楽しんでいた人やこれから楽しもうとしていた人にとっては寝耳に水であり、大きな混乱を招いた。イギリスの運輸大臣も例外ではない。休暇でスペインに到着した直後に本国から連絡が入り、休暇を切り上げて帰国する破目になった(当然ながら、帰国後は自己隔離へ)。今回のケースを踏まえると、他の国もいつ何時再適用されるか分からず、おちおちイギリス国外に行けなくなるだろう。
一方、感染が拡大する日本ではGo To トラベルが前倒しで開始されたが、イギリスも、外食やホテル、娯楽施設等にかかるVATを7月15日から半年間20%から5%に引き下げている。形は異なるものの、屋内に籠っていた人々に、外に出てお金をもっと使いましょう(但し、マスク着用で)というキャンペーンである点は共通している。また、YouGovの別の調査によると、欧州大陸各国の人々は、米国や中国に次いで、イギリスからの旅行者をあまり歓迎していないという結果もあり、この夏は国内で大人しくしていた方がよいかもしれない。ただ、7月末、気温35度を超えたロンドンで実家から送られてきたアベノマスクを付けてみたが、やはり自分には小さく、マスク着用の夏は厳しそうだ。
(※1)リストは7月3日公表。なお、イングランドに戻る前に適用免除国に滞在していた日数は、自己隔離期間14日間から差し引くことができる。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也
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