新型コロナという壮大な社会実験

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2020年07月21日

2020年5月25日に緊急事態宣言は解除されたものの、足元、都市圏を中心に再び新型コロナの感染者が増えている。長期間にわたり経済・社会活動を止めることのデメリットは大きく、宣言解除後もその影響は日本全体に大きな爪痕を残している。政府が同年7月22日から実施の、いわゆるGo Toキャンペーン(Go To Travelキャンペーン)への賛否はあるが、いずれにしても今後は、「3密」回避の徹底による感染抑制とのバランスを取りながら、コロナ禍で新しい経済・社会活動の在り方を模索する日々が暫く続くだろう。

今回の新型コロナが過去のパンデミックと決定的に違うのは、遠隔での細やかなコミュニケーションや取引を可能にする技術基盤があることだ。経済・社会の発展の原動力には、対面でのコミュニケーションがもたらす集積の利益(そしてその結果としての都市化)があり、本来ならば、密を避けることは経済発展と相容れないものだ。しかし、様々なツールを活用することで、今はまるでその場にいるかのような細やかなコミュニケーションができるようになり、「3密」回避を徹底しながらも、経済・社会活動を維持していくことが技術的に可能になっている。

しかし問題は、まだ人々の気持ちが追い付いていないことだ。宣言解除後は、リモートワークが可能であった職種でも通常の勤務形態に戻っているところが多く、実際、通勤電車は以前とほぼ変わらない状態になっている。在宅勤務を前提としていない雇用制度や社内の事務手続き、限られたサーバー容量の下で、早急かつ強制的に在宅勤務を行ったため、期間中は様々な非効率さを経験したことだろう。しかし、性質的に在宅が不可能な職種の経済活動を止めないためにも、「3密」を避けるべく、リモートワークが可能であった職種はそれを前提とした仕組みへ再構築する時期に来ているのではないかと考える。それは、近年言われているデジタルトランスフォーメーション(DX)を行う最善の機会であるし、ひいては日本の積年の課題である生産性向上の、本当に最後のチャンスかもしれないのである。

新型コロナ禍では、いわば社会全体が実験をしているようなものである。周りも同じような状態なので、自分だけが失敗することのリスクは通常の状態よりも低いと考えられる。そうであれば、今はいろいろと試してみるのに絶好の機会とも言えるだろう。試行錯誤の過程で、新しいビジネスモデルを見つけることができ、そうしたイノベーションがコロナ終息後には、日本の経済・社会をけん引する契機となることを期待したい。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄