コロナ・ショックで加速する米国の脱中国

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2020年07月14日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

米国では新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛かっておらず、予断を許さない状況が続いている。だが、経済活動が段階的に再開されたことで景気は持ち直しつつある。もっとも、経済がコロナ・ショック前の水準を取り戻すまでには長い時間を要するとみられるのに加え、コロナ・ショックがさまざまな構造変化の契機となる可能性がある。

構造変化の一つとして想定されるのは、製造業を中心としたサプライチェーンの在り方である。新型コロナウイルスの感染拡大は、世界的な需要の急減を引き起こしたと同時に、供給ショックとして世界経済に大きな打撃を与えた。ISM(米国サプライチェーンマネジメント協会)が2020年3月に実施したアンケート調査によれば、回答企業のおよそ75%が、新型コロナウイルスの感染拡大によってサプライチェーンが混乱したと回答し、製品の発注から納入までのリードタイムは平時の少なくとも2倍になったという。こうした状況を受けて、米国企業の間ではサプライチェーンのレジリエンス(弾性力、回復力)を高めることへの関心が高まっている。

米国を取り巻くサプライチェーンに関して、特に大きな変化が想定されるのは中国との関係性である。米国の財輸入額全体に占める中国からの輸入額の割合(出所:商務省)は、トランプ政権による追加関税の実施によって低下したものの、それでも2019年で18.1%と、2位のメキシコ(14.3%)、3位のカナダ(12.8%)に大きな差をつけている。とりわけ電子機器などでは中国への依存度が非常に高く、他の地域からの代替調達の難しさが指摘されており、サプライチェーンのレジリエンスを高めるために、最大の輸入相手国である中国への依存度を低下させることが政策当局や米国企業にとっての優先事項になる可能性は高い。

加えて、足元で米国民の中国に対する感情の悪化が加速していることも、脱中国を促す要因になると考えられる。米国のシンクタンクであるピューリサーチセンターが2020年3月に実施した調査によれば、中国を好ましくないと考える人の割合は66%に達した。米中摩擦に対する懸念が大きく高まっていた2019年8月調査の60%からさらに上昇し、過去最高を更新した。新型コロナウイルスの感染拡大が対中感情の悪化にどれだけ関係しているかは確かではないが、トランプ大統領が中国への批判を強めたことが、少なからず影響を与えたとみてよいだろう。

同調査によれば、中国を好ましくないと考える人の割合は共和党支持者では72%と特に高いが、民主党支持者でも62%と半数を上回っている。トランプ大統領は11月の大統領選挙の対抗候補であるバイデン氏を、中国に対して弱腰と批判するが、バイデン氏もこうした世論を背景に、中国に対して強硬姿勢を維持する可能性が高い。したがって、11月の大統領選挙の結果が、これまで悪化してきた米中関係を好転させるきっかけになるとは考え難い。

トランプ政権による追加関税に端を発した米中貿易摩擦とそれに伴う世界貿易の縮小は、コロナ禍以前の世界経済において最大の懸念材料であったが、新型コロナウイルスの感染拡大によって状況はさらに悪化しつつあると言えよう。

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橋本 政彦
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