2020年06月25日
毎日のようにコロナ禍の話題が溢れている。少々食傷気味ではあるが、筆者が、3月18日に同じ表題でコラムを書いて以降、新たに分かってきたこと、不思議に思うこと等も増えてきた。コロナ禍の第一ステージが終了したこの段階で、SDGs目線で認識をアップデートしてみたい。
国内外のコロナ禍についての情報は、それぞれの国情や価値観、延いては文化や国民性を映しており、不謹慎な言い方になるが興味深く、あるいは不可思議に感じる点も少なくない。例えば、筆者の独断で挙げると、血液型O型の感染率が低いのはなぜか、岩手県で感染者がゼロなのはなぜか、ベトナムのコロナ感染者は300人台で死者ゼロなのはなぜか、世界各国の実体経済は当面悪化が想定されるにもかかわらず、多くの株式市場はコロナ前の水準を回復しているのはなぜか、コロナ禍で苦しむ中(全く別の原因で起こった)デモに乗じて略奪を繰り返す輩は一体何を考えているのか、等々、枚挙にいとまがない。
特に、日本のコロナの感染者・致死率が(人口対比で)世界的に傑出して低いのはなぜか。BCG接種が効いているとの説もあるが、直近の抗体検査で、日本では概ね“千人に1人”という低い抗体陽性率の調査結果を見ると、ここ数か月のコロナ対策がいかに効果的に実行されたかの証左になろう。疫学的な実証は功名な先生方にお任せするとして、この点は素直に評価すべきではないか。勝因は、個人が生活を営むコミュニティの倫理・道徳や価値観を、「個」に優先して実行できたことにあると、筆者は考える。今回、感染者数の増加に苦しむ欧米では、「個」が第一の国であり、コミュニティを「個」より優先していく行動を徹底できなかったのではないか。もちろん、個人レベルでは、日本でもコミュニティと反駁する者、欧米でもコミュニティを優先する者は存在する。あくまで大きな傾向として、である。
正直言って、緊急事態宣言下ではSDGsを考える余裕など企業も個人も無かっただろう。やはり、ある程度の安定が確保できないと自らのことで精一杯になってしまうということだ。「衣食足りて礼節を知る」は自明である。
このようなコロナ禍においてSDGsを考える時、象徴的な人物として伊庭貞剛(第二代住友総理事)がいる。別子銅山の環境対策に尽力するなど、ご存じの方も多いと思う。「自利利他、公私一如」すなわち、“利他主義”の精神を貫いた明治時代の実業家である。事業の利益のみを追求せず、環境問題の解決を目指す姿勢は、SDGsの視点そのものであり、コロナ禍に対峙する日本人の意識にも通じている。
今は第二波の到来に備えるステージ。各自コミュニティの倫理・道徳や価値観を大切にし、そうかと言って、行き過ぎた「自粛警察」のようなことはやめて、利他的に行動出来たら素晴らしい。それが、SDGsやコロナ対策についての真の「日本モデル」になるだろう。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主席コンサルタント 橋本 直彦
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